「酒が駄目となると……どこに行けばいいんだ」

健全なお子様を連れていっていい場所というのは、氷河のテリトリーの中にはない。
私服に着替えた瞬を助手席に乗せて車を出したものの、氷河には目的地をどこに定めるべきなのか良い思案がなかった。

「どこか行きたいところはないか?」

瞬に尋ねると、しばらく考え込む様子をみせてから、瞬はためらいがちに口を開いた。

「あ…あの、僕……遊園地の観覧車に乗ってみたいんですけど……」
「遊園地? この辺りだとどこにあるんだ?」

それは、氷河には全く縁のない場所である。
必死になって思い出そうとしている氷河を見て、そこに行きたいと言った当の本人がぽかんと間の抜けた顔になる。

「あの……いいんですか? 遊園地でも。それで、取材になるの?」
「各分野の最先端にいる科学者の素顔を探るというのが、今回の取材のテーマだから問題はないさ。それで取材になるかどうかはともかく、行きたいんだろう?」
「はい!」

瞬が、氷河のその言葉に元気な良い子のお返事を返してよこす。
それから瞬は両の肩をすくめるようにして口許をほころばせた。

「僕、これまで色んな雑誌やテレビの取材に応えてきたけど、こんなの初めて。こんな取材なら毎日あっても嬉しいです!」

「…………」

こう素直に喜ばれると、氷河の方も罪悪感を覚えずにはいられない。
『グラードのホストコンピュータのパスワードを教えてくれないか』と正面からぶつかっても、躊躇なく教えてくれそうな瞬の屈託のない笑顔が、氷河にはむしろうらめしくてならなかった。


結局氷河は、カーナビでなんとか捜し出した遊園地に瞬を連れていくことになったのだが、そこでも瞬は、また思いきり氷河に肩透かしを食らわせてくれた。
いったい誰が何を考えて設計したのかを疑いたくなるようなカーテン付きの観覧車に乗ってはしゃいだ後、瞬は、
「次! 次、あれに乗ってもいいですか?」
と、地上80メートルから急降下する絶叫マシンに勇んで乗り込んだのだが、そこでまた、気分を悪くして倒れてしまったのである。





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