それから一ヶ月ばかり、氷河は、金は銀行の金庫に腐るほどあるのに、カードが使えないせいで安ホテルを泊まり歩かざるを得ないという生活を続けることになった。
カミュが自分を買ってくれていたことはわかっているのだが、彼が複数人から成る組織の長であるからには、その温情を期待することはできそうになかったのだ。



氷河のそんな逃亡生活に終止符が打たれる日。
その日は存外早く訪れた。


思いがけない人が、誰にも知られていないはずの氷河の逗留ホテルの部屋をノックしてきたのだ。


明日にはどこか別の場所に移動しようと考えて、行く先を思案していた氷河は、ドアにセットしておいた探知機が銃器反応を示しているのに気付いて、あらかじめの算段通りすぐにその部屋から逃げ出そうとした――のだが。


「氷河、逃げなくてもいいですよ」



防音設備も施されていないドアの向こうから聞こえてきたのは、今となっては氷河が信じることのできるただ一人の人の声だった。





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