「瞬!!」



なんとか人が通れるくらいの隙間ができると、俺たちは、俺、瞬、星矢の順にトンネルの外に出た。
トンネルの周囲には、ブルドーザーやらクレーン車やら結構な数の大型車両が集まってて、トンネルの入り口は、岩盤の崩落を防ぐための補強までされていた。
これだけのことをたった1時間でやりとげたのかと、俺は少しばかり驚いた。

が、それより何より俺を驚かせたもの。

それは、俺に続いて外に出てきた瞬を人目もはばからずに抱きしめる、でかい図体をした金髪男だった。


「瞬、無事か!」
「平気。怪我一つしてないよ。心配させちゃった?」
「事故に巻き込まれたにしたって、生きてさえいれば、おまえなら何をしても俺に連絡を入れてくるだろう。それがないから俺は……俺はもう生きた心地がしなかったぞ……!」

瞬の肩口に埋まっているせいで男の顔は確かめられなかったが、その声はえらく辛そうで、多分夕べ一睡もしていないせいなんだろうが、すっかり掠れている。

この恥知らずの外人は何者なんだと、俺は思いっきり眉をしかめることになった。

おまけに、トンネルに閉じ込められている間中、ずっと毅然としていた瞬が、
「ごめんね。氷河、助けに来てくれてありがとう。僕、信じてたけど、ずっと怖かったんだよ……」
――である。

「もし、もう二度と氷河に会えなかったらって考えると、怖くて不安で泣いちゃいそうだったの」
「そ…そうか、もう大丈夫だ。俺が来たからな」

瞬のその言葉を聞いた金髪男の口調が急に変わる。

それまで、でかい図体で背中を丸めるようにして、まるで寄りかかるように瞬を抱きしめていた金髪男は、なんだか急にしゃきっとしたみてーだった。

瞬は瞬で、トンネルから出たら一回り小さくなったみてーな印象で、トンネルの中で俺を怒鳴りつけた時の凛とした様子はかけらもない。

その変わり様に、俺はひどく戸惑った。

毅然として俺を怒鳴り諭してくれた瞬と、今俺の目の前で、得体の知れない金髪男に、拾われてきた猫みてーに懐いている瞬と、どっちが本当の瞬なんだ?――と。


瞬の後から外に出てきた星矢は、俺にとっては理解不能なその光景を見ると、呆れたように肩をすくめ苦笑しながら、俺に説明(?)してくれた。

「ははは〜。驚いたろー? あれがさー、瞬に頼ってもらってないと、一人じゃマトモに生きていけそうもない瞬のカノジョでさぁ」
「瞬のカノジョ……」
「瞬は教育し直そうと頑張ってるんだけど、これがなかなかねー」

俺は、あのデカい図体をした男が瞬のカノジョなのかと尋ねようとしたんだが、その時、えらく高そうなブランド物の服を着た女――まだ、子供だ――と、長髪の男が星矢の側に駆け寄ってきたせいで、俺はそれを星矢に確かめる機会を逸した。

「星矢! 怪我はありませんか!」
「星矢、心配したんだぞ!」

「だいじょぶだってー。俺は不死身だぜー」



「…………」

やっぱり、瞬と星矢には、俺なんかと違って、その身を案じてくれる奴が腐るほどいるんだと、俺が落胆しかけた時、
「もう、心配させて、この子は!」
俺が一晩二晩家に寄り付かなくても心配もしないはずのお袋の声が、俺の耳に届けられた。
「ほんとに仕様のない馬鹿息子だな、おまえは!」
お袋だけじゃなく、親父まで来てやがる。

つい昨日までだったら、『誰も心配してくれなんて頼んだ覚えはねぇ』だの『馬鹿なのはあんたに似たせいだよ』だのと憎まれ口を叩いていたところだったろうが、今はなぜかお袋たちの言葉が素直に受け止めることができて、俺は、
「悪かったよ」
と素直に(?)お袋たちに頭を下げることができた。


ふっと顔をあげると、嘘みてーに整ったツラの金髪男に肩を抱かれた瞬が、そんな俺を少し離れたところから見てるのに、俺は気付いた。

「お互い、よかったですね。大切な人たちを悲しませずに済んで」
瞬はそう言って、やわらかく俺に微笑いかけてくれた。



早朝の光の中で、俺は初めてまともに瞬の顔を見た。
じょーだんみてーに綺麗な目をした、超々々可愛子ちゃんだった。





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