それから、俺は念のためにってことで救急車で病院に運ばれ、簡単な検査を受けさせられた。
瞬と星矢はどこか別の場所に運ばれたらしく、俺が運ばれた病院で会うことはなかった。


これは、後から聞いたことなんだが、あの超素早い救援活動はグラード財団からの要請で為されたものだったらしい。保険に入ってなかった俺のバイクも、天下のグラード財団が同じ車種のものを後から俺の家に届けてくれた。

俺は、どうしても瞬に礼が言いたくて、グラード財団の本部ビルとか財団総帥の私邸に行ってみたんだが、そのどちらでもあっさり門前払いを食わされた。本部ビルの受付のねーちゃんも、私邸のインタフォン越しの声も、『ここには、瞬だの星矢だのという子供はおりません』と断言して、俺を追い払った。

そんなはずはないと言い張るだけの根拠は俺にはなかったし、だから、結局俺は瞬にもう一度会うことは諦めるしかなかった。


一度だけあの時の少女をテレビで見た。
ブラウン管の向こうで、グラード財団の総帥という肩書きの彼女は、某国営放送の年配のインタビュアーになんだか小難しいことを喋っていた。


俺はあれから、少し真面目に自分の将来を考えて、親を説得して予備校をやめ、バイクの修理工場に就職した。
職場は割りといい感じのとこで、俺は自分でも信じられないくらい真面目に働くようになり、結局は親たちも俺の就職を喜んでくれた。
相談事ができるような友達もできたし、瞬には及ぶべくもないが愛嬌のある彼女もでき、大切な人が増えた。



けど、俺は、二度とあの二人の不思議な子供に会うことはできなかった。







「僕は死ねないんだっ! 僕には、僕が死んだら、そのせいで死んでしまう人がいるんだからっ!」


そう言って俺を怒鳴りつけた時の瞬の声が、俺は今でも忘れられない。





Fin.






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