(僕が消えてしまったら、氷河は悲しむかしら)



自分を氷河の許に導いた鏡を手に取って、瞬は思い悩んでいた。

昼間は氷河は“仲間たち”というものが待つところに行く。

『今のおまえは、俺だけのおまえなんだから、ここで俺を待っていてくれればいい。生きていた時の人間の義務はもうおまえを縛らない』

氷河は瞬にそう言う。

氷河によって生まれた自分だから、それでいいと瞬も思う。

(氷河の言う通り、僕は生きてる人間じゃないんだ。僕は鏡を通ってここに来て、そして)

(僕が消えたら、氷河は少しは悲しんでくれるかしら)
(それとも、またすぐに別の“瞬”を作るの?)

そのどちらもが、瞬にはどうしようもなく辛かった。

(この鏡が割れたら、僕も消えてしまうの?)

それでも、どれほど辛くても、もしかしたら、それがいちばんいいのかもしれない――と思わないでもない。
手にとった鏡を床に叩きつけようとして、だが、すぐにまた自分の胸に抱きしめる。
瞬には、そうすることはできなかった。
そんなことをして、本当に自分自身が消えてしまったら、二度と再び氷河に会うことができなくなる。
氷河に抱きしめられる時の堪え難いほどの歓びが、氷河に見詰められている時の遣り切れないほど優しいその眼差しが、鏡の破壊を実行に移そうとする瞬を阻んだ。





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