瞬は、教えられたことを、教えられた以上に自分のものにしていた。
瞬のキスに、氷河はすぐに説得させられてしまったのだ。

「……すまん」
「氷河、普段の自信はどこにやったの」

そんなことを言われても、本気で人を恋している人間が、そうそう自信に満ちていることなどできるはずがないではないか。

「おまえが……俺の側からいなくなっていたから……」
「え?」
「目が覚めた時、おまえが俺の横にいてくれなかったから――」
「…………」

自分より二回りは大きい体格をした氷河の、拗ねたような物言いに、瞬は瞳を見開いた。
それから、困ったように睫毛を伏せて、自分がそうせざるをえなかった訳を、氷河の胸に向かって訴える。


「は……恥ずかしかったのっ !! 」
「なに……?」

瞬がそんな理由で――そんな、あまりに馬鹿げた理由で――自分の腕の中から抜け出したのだったと知らされ、今度は氷河の方が目を丸くした。

瞬は瞬で、それこそこんな“恥ずかしい”ことを自分に言わせた氷河を、恨みがましい目で睨んでしまったのである。


「……すまん」

心底からすまなそうに謝罪してくる氷河に、瞬が小さく溜め息をつく。
瞬は――実は、瞬の方こそが――そんな氷河が意外だったのである。
瞬の目に、普段の氷河は、過剰と言ってもいいのではないかと思うほどに自信に満ちた男に映っていた。


氷河にも存外に可愛いところがあるのだという新しい発見は、瞬にはひどく楽しいものだった。
この可愛らしい獣を安心させてやるために、ささやかな提案をする。

「……じゃあ、もう一度、僕達の永遠を確かめ合うことにしようか」
「い…いいのかっ !? 」

本当に、思っていた以上に可愛らしい氷河の反応に、瞬は彼には見てとられぬようにこっそりと苦笑したのである。


「あの詩人によると、詩心が特にそそられる時刻っていうのは、暁と夕だそうだから」

理由になってない――とは、瞬自身も思っていた。
が、理由はいらない。
理由は必要ないのだ。

初めて肌を交わらせて、その甘く深い歓びを知ってしまった人間が、再びその歓喜を求めることに、もっともらしい理由など、求める方が間違っているのだから。





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