瞬は、律儀である。 瞬は、自身が宣言した通り、自分が活動を禁じた相手に対して、実に行き届いた世話をしてくれた。 それはそれはでなかなかに楽しいシチュエーションで、日常の生活から夜の生活まで、氷河は氷河なりに悦楽の日々を過ごしていたのだが、瞬の方はこの事態をあまり楽しむことはできていないようだった。 当然である。 瞬は自ら好んで氷河の行動を制限しているわけではないのだから。 瞬の心を落ち着かせてくれる氷河の一言さえもらえれば、すぐにでも解放したくて、それなのに、その一言を言ってくれない氷河に意地を張っているようなものなのだから――。 ところで、行動を制限されると、人間が生命を維持するということは実に単調なイベントの積み重ねになる。それは夜の生活の方も同じことで、なにしろ瞬の中には、その手のことに関するバリエーションの知識が極端に少ない。 そこに、氷河は隙を見付けた。 本心ではもうこんなことはしたくないと思っている様子もあからさまに、それでもいつもの通り、氷河の衣服を脱がそうとし始めた瞬に、氷河は誘いをかけてみた。 「瞬、本当はもうこのやり方には飽きたんだろう?」 「……飽きたりなんかしてない」 瞬の言葉と声音は正反対だった。 どんなに美味いフランス料理でも、同じメニューが1週間続いたら、人間はお茶漬けが食べたくなるものなのである。 まして、今の瞬が求めていることは、自分が氷河に愛されているという確信――なのだ。 「こーゆーのはどうだ? やる時だけチェーンを外す」 「氷河、逃げるつもりでしょ」 「……やる時だけ、胸のチェーンを外して、片方の足首だけチェーンで繋いでおくというのはどうだ? 要するに俺がおまえから逃げられなきゃいいんだろ?」 「…………」 飽きたというよりも、瞬は、氷河を逃げられない状況に追い込んだ上でのその体勢に、屈辱を覚えていたのである。 しばらく考え込んでいた瞬の手が氷河の胸に触れると、チェーンはするすると移動を始め、それは氷河の右の足首に巻きついて、やがて意思のないただの鎖になった。 こうなるともう、その場は氷河の独壇場(?)である。 久し振りに“上”で“攻め”をできる状況を、氷河は大いに楽しませてもらった。 氷河は大満足したし、瞬は――おそらく、瞬は氷河以上に、氷河に能動的に抱いてもらえたことに満足したらしかった。 その証拠に、その夜以降、氷河の自由を制限するのは片方の足首に巻きつくチェーンだけになったのである。 |