「あの家には妖精が住んでいるらしいよ」 最初は、それは、ほんの小さな可愛らしい噂でした。 誰もあまり本気にはしなかったのです。 けれど。 「夕べ、あの家の近くを通ったら、楽しそうな歌声が聞こえてきたんだ。いや、最初は虫の音かとも思ったんだが」 「何でも、その妖精ってのは、幸福を運んでくる妖精らしい」 「そういえば、あそこの家の旦那さんは、まともに働いている様子もないのに、金に困ったふうもないからなぁ」 「奥さんが、これまた可愛いしな」 「あの奥さんは、いっつも幸せそうににこにこしてるよなぁ」 「妖精ってのは、あの奥さんのことじゃないのかい?」 「いや、何でも、その歌声は一人だけのものじゃなかったんだってさ」 「じゃあ、やっぱり、あの家には……」 妖精の歌声を聞いたという証人が次から次に現れ、噂は噂を呼び、氷瞬家の近所では、その噂がすっかり定着してしまったのです。 氷河は在宅勤務がほとんどでしたが、一応グラード財団の上層部に籍を置き、社会的に通用する立派な肩書きを持っていましたし、瞬はれっきとした男の子。 その噂にはかなりの誤解も含まれていましたが、噂というのはえてしてそんなものです。 氷河は、ですから、その噂のことは聞き及んでいましたが、特に何をするでもなく、放っておいたのです。 ところが。 その噂のせいで、ある日メイドロボたちはとんでもない事件に巻き込まれることになってしまったのでした。 |