「やっと、静かになったな」

氷の国星の小人たちが部屋を出ていくと、それまで騒がしかった室内に、いつもの穏やかさが戻ってきます。
氷河は、短い溜め息をひとつついてから、ソファに腰をおろしました。

「氷の国星の小人さんたちが立ち直りの早い小人さんたちでよかったね。それにしても氷の国星のシステムって素晴らしいね」

「ん? そうか?」
おーるぬぅどの氷の国星の合体瞬の姿を思い出して、氷河は僅かに眉をひそめました。
彼には、自分の瞬のおーるぬぅどを他の氷河に見られてしまうようなシステムが、そんな優れものだとはどうしても思えなかったのです。

「いい子にしてることの目的とご褒美が明確だから、あの子たち、目的に向かって迷いもなく頑張れるんだろうね。正しい人格形成にも有効だし、社会貢献にもなるし、なにより愛情確認に抜群の効果が──氷河、聞いてる?」

「あ? ああ、ちゃんと聞いてるぞ。ポイント制度は××にとって、完璧なシステムだってことだな」
「…………」

瞬は、まるで話を聞いてくれていない氷河に、胸中では少々不満だったのですけれど、その件に関してのそれ以上の言及はやめることにしました。
氷河には氷河の都合というものがあるのでしょうし、今はそんなことよりも、氷の国星の小人たちを氷の国星の氷河さんのところに帰してあげることの方が重要問題でしたからね。



「で、氷の国星のこと、何かわかった?」
「さっきデータ検索してみた結果がこれだ」

氷河が、瞬に手渡したファイルの内容は、彼がたった今グラード・メイドロボ・コーポレーションのデータベースから失敬してきたものでした。

「氷の国星──地球からの距離推定14万8千光年。半径6378km、公転周期365.24日、 表面温度マイナス70〜プラス55度、大気の成分は、窒素77%、酸素21%、水蒸気及びその他のガス……。これって、まるで……」
「表面重力加速度、平均軌道速度、公転周期、自転周期、どれも地球とほぼ同じだ」
「データはこれだけ?」
「未知の惑星だからな……。このデータも非公式なもので、グラードの私設惑星探査機の調査結果なんだ。これが氷の国星の映像だ。不鮮明だが」

氷河は、手にしていたマイクロフィッシュを、テレビを兼ねたマイクロフィルマーにセットしました。
画面に映し出される青い星は、やはりどこか地球に似ています。
地球よりも、わずかに陸地の割合が少ないようでしたが、それは本当に美しい星でした。

「きれいな星だね……。氷の国星と通信できればいいのに」
「あの迷子札をグラードの研究施設で解析してみるか。少々、俺のデータアクセス権限を越えることになるが」
「それくらい神様も許してくれるよ、きっと。氷の国星の小人さんたちを、早く氷の国星の氷河さんのところへ帰してあげなくちゃ」
「そうだな。あの賑やかな小人たちとの生活に慣れている氷の国星の氷河が、氷の国星にひとりきりでいる場面を想像すると、どうにも哀れでならん」
「うん。きっと寂しがってるよね」

瞬は、氷河の横顔に小さく頷き返しました。
なるべく早く、氷の国星の小人たちを故郷の星に帰して、氷の国星の氷河を安心させてやりたい──。
瞬は、そう思ったのです。







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