『──続きまして、北極の様子をお送りいたします』 テレビ画面には、北極熊やキタキツネが狂ったように浮かれ騒いでいる様子が映し出されていました。 『南極でもペンギンが、浮かれている模様です』 画面が切り替わると、今度は、ペンギンたちが入り乱れ、さながらリオのカーニバルのダンサーのような興奮状態にある様が映し出されました。 ニュースのコメンテーターは、世界各国の各種機関の懸命の調査にも関わらず、この謎の異常気象の原因は依然不明だということを、沈痛な面持ちで語っています。 原因の究明と解決がいつになるのかは誰にもわからない──とも言いました。 画面の向こうから伝えられてきたそのコメントを聞くや、瞬が真っ青になって、掛けていた椅子から立ち上がります。 「世界中が突然の異常気象……ってことは──大変……!」 そのまま表に飛び出そうとした瞬を、慌てて氷河が止めに入ります。 「瞬! 迂闊に外に出るな!」 「離して! 僕には、どうしても行かなきゃならないところがあるんだ!」 「今は駄目だ! ここにもいつ巨大な雹や大雪が降るかわからない」 「だから行かないと……! すぐ帰ってくるから!」 瞬は、いつになく、彼らしくない必死の形相です。 引き止めるのは無理のようでした。 「なら、俺も一緒に行く。お前ひとりを危険な場所に行かせられるか」 「瞬様! 僕たちもお供します!」× 15 「氷河……メイドロボちゃんたち……」 ともすれば命の危険さえ伴いかねない異常事態の中、自分の身を気遣ってくれる氷河とメイドロボたちの言葉に、瞬の瞳はじわりと潤んできてしまいました。 「なんだか曇ってきたな。ここも、そろそろやばいかもしれん」 「急がなきゃ!」 駆け出した瞬の後を、氷河がすぐに追います。 メイドロボたちも一生懸命追いかけます。 「瞬! いったいどこへ……」 いったい瞬はどこに向かって急いでいるのか──氷河が瞬に問いかける前に、二人は目的の場所に到達していました。 二人が暮らしている家の庭の南側にある、屋外物干し場に。 「氷河、急いで、洗濯物とお布団をっ!」 「へ?」 「雪が降り出さないうちに取り込まないと、今夜はふかふかのお布団で眠れなくなっちゃうよ!」 「あ……? あ…ああ、そうだな」 それはそうです。 無限の宇宙のその中で、人間は、泣いたり笑ったり食べたり眠ったりしながら、精一杯生きているのです。 ふかふかのお布団で眠れなかったら、それは大変なことなのです。 「氷河はお布団をお願い。僕は洗濯物を取り込むから」 「う……うむ……」 「あ、お布団を取り込む前には、軽く叩いて埃を払ってね」 「わ……わかった。こうか?」 「そう、優しくね。あんまり強く叩くと綿が切れちゃうから」 瞬の的確な指示を受けて、氷河は、慣れない仕事に必死に挑みました。 が、なにしろ、彼は、××以外は頭脳労働の男です。 なかなかうまくできません。 自分の不器用さを、氷河は、晴れた日の真昼のそれとも思えない周囲の薄暗さのせいにしようとしました。 もしかすると、それは、彼の、意識していないプライドが言わせた弁解だったかもしれません。 「それにしても、何でこんなに暗いんだ……」 辺りが薄暗い理由を氷河が知ったのは、彼が責任転嫁の言葉を言い終わってからでした。 「氷河っ! あれを見てっ!」 布団を担いだ氷河が、洗濯物を抱えた瞬の指差した方向に視線を巡らせます。 すると、そこには──。 そこには、あるべきものがありませんでした。 |