ここは、地球でいちばん小さな国。 氷の国の氷河と氷の国の小人たちが住む、氷の国です。 小人たちは、ちょうどお昼寝から目覚めたところ。 氷の国の氷河のお仕事の進み具合いを監督するために、小人たちはぞろぞろと、氷の国の氷瞬城の北側にある氷河の作業部屋にやってきました。 「氷河、どうしたの?」 「うん、どうやら刺繍仕事の依頼らしいんだが……」 9号がそう尋ねたのは、作業場にいた氷の国の氷河が腕組みをして、何やら考え込んでいる様子だったからです。 氷の国の氷河の作業部屋のお裁縫台の上には、アルミ合金のようなものでできた電子レンジ大の箱が一つ置いてありました。 今日、聞いたことのない宅配会社のおにーさんが届けてくれたものです。 その中には、シルクに似た布で仕立てられた高級そうなドレスシャツと、まるで軍服のような肩モール付きの洋服、それから、大の男の足許にまで届きそうな長い銀色のマントが入っていました。 それから、紙が一枚。 「この紙にある模様をシャツの胸ポケットに刺繍して欲しいらしい。あと、軍服の胸にもかな。マントには、ワンポイントで……」 「お仕事? なら、張り切ってやってね! ポケットの刺繍なんか、氷河だったら、2、3分でできちゃうでしょ!」 「ん……。まあ、かなり複雑な模様だが、おまえたちのぱんつを作るのよりはずっと簡単な仕事だ。だが……」 「だが……? どうかしたの? 何か不都合でもあるの?」 「うーん……。見たことのない布地でできてるんだな、このシャツも軍服もマントも。刺繍する模様も、飾り文字のようなんだが、見たことのない意匠で……」 なにしろ、氷の国の氷河は、内職で、世界各国の王侯貴族・政治家・財界人・著名人の衣装の仕立てや刺繍を手掛けています。 自分はボロを着ていても、上等の布やお洋服は見慣れているのです。 その氷の国の氷河をもってしても見たことのない材質の布地。 氷の国の氷河は、そこに引っかかっていたのでした。 「布なんか何だっていいよ! ちゃんと報酬を払ってくれるのなら。さあ、いらないこと考えてないで、仕事に取りかかって!」 「う…うむ……」 氷の国の大蔵大臣にそう命じられてしまっては、しがない国王にすぎない氷の国の氷河は逆らうことができません。 彼は、早速、刺繍針を手に取って、仕事に取りかかりました。 ちーくちくちくちくちく。 「しかし、ほんとに見たことのない布地だ……。最高級のシルクより軽くて手触りがよくて……」 ちくちくちーくちく。 「立派な軍服にマントだなぁ。どこの偉い人が着るんだろう……」 裁縫台の上では、いつものように小人たちが、『氷河、お仕事がんばって』のダンスを始めました。 小人たちに応援ダンスを踊ってもらうと、氷河の仕事ぶりには熱がこもります。 氷の国の氷河の刺繍針さばきは、いよいよ速度を増し、それはそろそろ音速に達しかけていました。 |