「見事だ……!」

さて、こちらは、氷の国のある地球から遠く離れた銀河にある氷の国星です。

広くゴージャスなお屋敷のゴージャスな部屋で、ゴージャスな衣装を身につけてゴージャスな安楽椅子に腰掛けた氷の国星の氷河が、スパイ衛星から送られてくる氷の国の氷河の作業風景映像を眺めながら、感嘆の声をあげていました。


そうです。
氷の国の氷河に刺繍の仕事を依頼したのは、実は、氷の国星の氷河だったのです。
彼は、スパイ衛星で、地球に天才的なお針子さんがいるのを見つけ、試しに数着分の刺繍の仕事を依頼してみたのでした。

氷の国の氷河が不思議な模様だと思ったのは、氷の国星語の『氷河』のイニシャルを象ったものだったのです。


ゴージャスの星のもとに生まれた氷の国星の氷河は、自分では針に糸も通せませんでしたが、何度か、自分の衣装を作りたがるデザイナーたちの仕事場を見学したことはありました。 

スパイ衛星が送ってくる画像で見た氷の国の氷河の仕事ぶりは、そこにいた熟練の裁縫師たちより数百倍優れ、数千倍も巧みなものでした。
ですから、氷の国星の氷河は、氷の国の氷河の仕事ぶりを見た時、即座に、氷の国の氷河を自分の衣装担当係りの一員に加えたいと思ったのです。


「実に素晴らしい! あんなチンケな星に、こんなにも素晴らしい天才お針子がいたとは! これは、手間賃を弾んでやらなければなるまい。地球では、何がいいんだろう。金か、ダイヤか、それとも、ウランかコバルトだろうか」



氷の国星の氷河が、氷の国の氷河への報酬を何にしようかと考え始めた時、彼の大事な小人たちが3列縦隊でリビングにやってきました。

「氷河―っっ! なに嬉しそうにしてるの〜v」× 15
小人たちは、氷の国星の氷河の側までやってくると、隊列を崩して、それぞれに、わらわらわらと氷の国星の氷河の腕や膝や肩に駆け登ります。

15人の小人たちが全員元気でいるかどうかをチェックしてから、氷の国星の氷河は、壁のワイドスクリーンを指し示しました。

「ああ、俺の可愛い いい子たち、見てごらん。素晴らしいお針子さんを見つけたんだ。今度、彼に、おまえたちのよそ行きの洋服を作らせよう」

「うわー! すごいね! 手の動きが全然わかんないよ!」
「うんうん、すごいね。まるで指が100本もあるみたい!」
スクリーンの中で、一心不乱に針仕事をしている氷の国の氷河の様子を見て、氷の国星の小人たちは歓声をあげました。

「手間賃を弾んでやろうと考えていたところだ。見たところ、貧しい暮らしをしているようだし、この俺を満足させるほどの腕前を持つ裁縫師はなかなかいない。彼には、大きな宇宙船を買えるくらいの代金を払ってやらなければなるまい」

「あ、だったら、結晶クッキーがいいよ!」
「結晶クッキー、僕、だーい好き!」
「結晶クッキーを貰って喜ばない人はいないもんね!」
「だよね〜っっ !! 」× 15

小人たちの意見に、氷の国星の氷河は僅かに首をかしげました。
「ん? そうか? 俺は、ダイヤかウランをコンテナいっぱいに詰めて送ってやろうと考えていたんだが」

「ダイヤなんて食べれないもの貰ったって、この人、喜ばないに決まってるよー!」× 15

氷の国星の小人たちは、自分たちが貰って嬉しいものを贈ることこそが最高のプレゼントだと思っていました。
それはそうでしょう。
自分が貰って嬉しくないものを人に贈るなんて、それはとても良くないことです。
――贈る相手と贈られる相手の価値観や好みが同じ場合には。


「さすがは、俺のいい子たち、本当にお利口さんだな。言われてみれば、その通りだ。よし、この貧しいお針子には、ダイヤではなく結晶クッキーを10年分送ってやろう」

氷の国星の小人たちは、氷の国星の氷河に誉められて上機嫌。

「わー、氷河って優し〜」
「さすがは、僕たちの氷河だけあるね!」
「太っ腹だよね!」
「素敵〜 !! 」× 15

「ふっ……」

氷の国星の小人たちに誉められて、氷の国星の氷河もとてもいい気分。
善は急げとばかりに、早速、結晶クッキーを作っている製菓会社の社長にホットラインをかけます。
ホットラインの向こうでは、氷の国星のめーじゃ製菓の社長が、大株主の氷の国星の氷河からの特別注文を受けて、平身低頭していました。


ゴージャスの星のもとに生まれた氷の国星の氷河は、お金で苦労したことがないので、お金のありがたみを良く知りません。
それがちゃんと地球で流通するものかどうかなんて、あまり気にもしないのでした。


この場合は、氷の国星から届けられた手間賃に、氷の国の氷河はともかく、氷の国の小人たちは大喜びでしたから、それで何の問題もありませんでしたけどね。


氷の国星側でも、宅配シャトルのおにーさんが運んできた、氷の国の氷河の仕事の成果に大満足。
氷の国星の氷河は、すぐに氷の国の氷河に追加の仕事を依頼したのでした。







【next】