さて、その夜。

小人たちは、まだ、たれたれ瞬ちゃんにもらった数字クッキーをしっかりと両手で抱えていました。
なんたって、自分の番号のクッキーですからね。
小人たちは、すぐに食べてしまうことができなかったのです。
おねむの前に食べて、楽しい夢を見ようと思っていたのです。


「おまえたち、そろそろ寝たらどーだ? クッキーは割れるといけないから、明日まで他のところに置いて」

「あ、もうこんな時間だ! 僕たち、たれたれ瞬ちゃんとたれたれ氷河さんとこ行って、おねんねしなくっちゃ!」
それまで数字クッキーを抱きしめながら、わくわく気分で浮かれていた小人たちは、氷の国の氷河にクッキーを載せるためのお皿を差し出されると、突然そんなことを言い出しました。

「え?」

躾の厳しい氷の国の氷河は、就寝前のおやつは禁止にしていました。
でも、小人たちは、おねむの前に数字クッキーを食べて、甘くて楽しい夢を見たかったのです。
氷の国の氷河と一緒では、それができません。

「よし、たれたれ瞬ちゃんとたれたれ氷河さんの寝室に移動するぞー !! 」
「おーっっ !! 」× 15

「う……」

小人たちの元気な号令に、氷の国の氷河の繊細なココロはまた、ちくちくと痛み始めました。
たれたれさん宅に来てから、小人たちはあんまり氷の国の氷河の相手をしてくれなくなっていました。
小人たちは、たれたれ瞬ちゃんとたれたれ瞬ちゃんのおやつに夢中で、ほとんど、たれたれ瞬ちゃんから離れようとしませんでした。
当然、小人たちは、いつもたれたれ瞬ちゃんの側にいるたれたれ氷河さんの側にいることになります。

氷の国の氷河が、たれたれ氷河さんみたいになれれば……と考えたのも、実はそんなことも関係していたのでした。
小人たちのすこやかな寝顔を眺めていられる夜だけが、氷の国の氷河の慰めだったというのに、小人たちは今夜はそれすらも許してくれないというのです。
氷の国の氷河の心が痛んでも仕方がありません。

けれど、氷の国の氷河の傷心に、小人たちはまるで気付いていませんでした。
パジャマを着て、数字クッキーを抱えると、小人たちは、縦隊を整えて、てってってっ☆ と、たれたれさん宅の客用寝室を出ていってしまいました。



「い……いいんだ、小人たちさえ幸せなら……」

よそのお家での、寂しい独り寝。
氷の国の氷河は、一人もぞもぞとお布団に潜り込むと、そこで声を押し殺して泣きました。
哀しい男の一日は、今日も哀しく終わりそうな雰囲気でした。



それにしても。

氷の国の氷河は、いったい一日に何度“哀しい男”をすれば気が済むのでしょう。
彼は本当に“哀しい男”の天才なのかもしれませんでした。