さて。
この世には、そんなふうに目と目でわかり合える二人もいれば、喋りに喋りまくった挙句にすれ違う二人(この場合は16人)もいます。

「氷河― !! 」
「僕たち、お利口になったのー !! 」
「ファイルを並べ替える時は、桁を揃えるのが大事なのー」
「僕たちみんな、数字クッキー2つずつもらえたんだよー!」

突然、自分の許に戻ってきてくれた小人たちが、次から次へと発射してくるセリフの意味が、実は氷の国の氷河にはちんぷんかんぷんでした。
小人たちは、なにしろ、要点だけを伝えるのが得意で、(自分たちには)わかりきっている前提条件を、氷の国の氷河に説明したりすることは滅多にありませんでしたから。

「そ…そーか、それはよかったな」

小人たちが何を言っているのか全くわからなくても、氷の国の氷河は小人たちに頷きます。
小人たちが楽しそうにしていてくれさえすれば、氷の国の氷河は、その理由なんてどうでもよかったからです。

よかったはずなのですが……。

「たれたれ氷河さんが教えてくれたんだー」
「たれたれ氷河さんって、頭いいよねー」
「親切だし〜」
「優しいし〜」
「クッキーもくれるし〜」
「なんたってカッコいいよね〜D」
「たれたれ氷河さんみたいな人のことを、彩色警備って言うんだよね(←間違っている)」
「うんうんうん(でも、言いたいことは通じているので問題はない)」× 14

「…………」

小人たちが、氷の国の氷河の前でよそのお家の氷河を褒めるのはセクハラです。

「そ…そーか、そうだよな。どーせ、俺は、あんな目もできないし、じっと見詰めるにしても、おまえたちはいつもちょこまかちょこまかしてるし……」
氷の国の氷河はすっかり、いじけてしまいました。

小人たちには全然悪意はなかったのですけれど。
小人たちは、たれたれ氷河さんと氷の国の氷河を較べて、そんなことを言ったわけでもなかったのですけれど。
それどころか、小人たちは、氷の国の氷河が世界でいちばんカッコいいのだと堅く信じていたのですが。

小人たちは、でも、そんなわかりきったことをわざわざ言う必要はないと思っていたのです。

これは、人がよくしでかしてしまう重大なミスです。
自分にとってわかりきったこと、言うまでもないことが、相手にとってもそうだとは限りません。
『I love you』は、毎日伝えた方がいいのです。


ともかく、『僕たちの氷河は世界でいちばんカッコいい』と思っていることを、小人たちは氷の国の氷河に伝えたことはありませんでした。
なので、もちろん、氷の国の氷河は、小人たちの気持ちを知りませんでした。

ですから、氷の国の氷河は、小人たちがたれたれ氷河さんを大絶賛するのを聞いて、めっきり落ち込んでしまったのです。