そういうわけで、翌日から、氷の国の氷河は、キッチン基地のリリィちゃん退治に意欲を燃やし出しました。

それは、小人たちの安全を守るため、そして、お世話になっているたれたれ瞬ちゃんに少しでも恩返しできたらと考えてのことでした。


けれど、たれたれ氷河さんは、そんな氷の国の氷河の襟首を掴んで、ずりずりとキッチンから連れ出してしまったのです。

「氷の国の氷河、おまえは、仮にも氷河の名を冠している男があんなことをしているのは情けないと思わないのか! おまえも氷瞬界の氷河なら、他にすべきことがあるだろう!」

「いや、しかし、小人たちが恐がるから……」
「そんなことはどーでもいいんだ! アレは根絶するのに無理があるし、アレが出たら追い払ってやって、瞬に感謝されるという特典もついている。俺はアレをわざと放置しているんだ」

「な…なるほど……」

さすがは、氷瞬界で最も幸せな氷河と言われているたれたれ氷河さん、与えられた環境を最大限有効に使っています。
たれたれ氷河さんが幸せな氷河でいられるのは、彼が幸運だからではなく、頭がよくて機転がきき、しかも二人の幸せのために日夜努力しているからのようでした。

ひたすら感心しまくっている氷の国の氷河に、たれたれ氷河さんは厳しい表情で言いました。
「とにかく! おまえと小人たちは、言葉はともかく、心は通じ合っているようだから、次は身体だ! 身体が通じ合っていれば、多少の言葉の齟齬はどうにかなる!」

「かっ……身体?」

たれたれ氷河さんの言葉に、氷の国の氷河は大赤面です。
一応、たれたれ氷河さんの言っている言葉の意味はわかったんですね。
氷の国の氷河にしては、とても立派です。


「あっ…あの、それはつまり〜……」
「何を赤くなっているんだ、貴様、それでも氷河なのか!」
「はぁ、そのようなんですが〜」

氷の国の氷河は、既に腰が引けています。
たれたれ氷河さんは、そんな氷の国の氷河に思いきり顔をしかめました。
同じ氷河として、たれたれ氷河さんには、氷の国の氷河の様子が情けなくて情けなくて仕方がなかったのです。

「あの、その、でも、小人たちはまだ小さいですし……」
「合体させればいいじゃないか」
「でも、は…初めてだと恐がると思うんです」
「優しくしてやれ」
「そんなこと言われましても〜;;」

仮にも氷河が、初めての瞬より恥ずかしがっていてどうするのでしょう。
たれたれ氷河さんは、氷の国の氷河に喝を入れるように力強い口調で言いました。
「あらゆる手段を駆使して、瞬の恐怖心を取り除いてやるんだ。それが、初めての瞬をいただく時の氷河のたしなみだ」

「ししししししかし、そそそそそれは、どどどどどーやって……??」
「その方法まで俺に聞いていたら、意味がないじゃないか。おまえなりのやり方で、おまえのありったけの誠意を、瞬に見せてやれ」

「は…はぁ……」
たれたれ氷河さんの迫力に押されて、氷の国の氷河は一応こくこく頷きましたが、その様子は頼りないことこの上ないものでした。


「あの〜、たれたれ氷河もそうやって頑張ったんでしょうか?」

恐る恐る『先生しつも〜ん』した氷の国の氷河に、たれたれ氷河さんは、照れもせずに真顔で頷きます。
「氷河として当然のたしなみだ」

当然のことのようにあっさりとそう言い切ってしまえるたれたれ氷河さんに、ひたすら感心するばかりの氷の国の氷河でした。