もうずっと以前から、氷の国にいつかそんな日が来るだろうことを、氷の国の氷河は、心の奥底で怖れつつ、予感していました――。 そして、運命の日は、意外にあっさりと訪れました。 そうです。 その日、ついに、氷の国の氷河のお財布(小人さんマークの刺繍入り)は、空になってしまったのです。 今、氷の国の氷河のお財布の中には、たった1枚の1円玉も入っていませんでした。 お金どころか、埃さえ入っていませんでした。 小人たちの今日の分のおやつ代が、氷の国の氷河の持っている最後のお金だったのです。 ついに小人たちの明日のおやつ代もなくなってしまった氷の国の氷河(のお財布)。 けれど、そんな大変な事態になっても、厳しい9号ちゃんは国庫の鍵を開けようとしません。 仕方がないので、氷の国の氷河は、てっとりばやく日給をもらえるアルバイトに出ることにしました。 某島国の超高層ビルの窓拭きのバイトです。 小人たちだけを氷瞬城に残していくわけにはいきませんから、氷の国の氷河は作業着のポケットに小人たちを入れて、ゆらゆら揺れるゴンドラに乗り、へこへこ窓磨きの仕事を開始しました。 ちょっとストーリー展開が唐突すぎやしないかい? なんて思ってはいけませんよ。 氷の国の氷河は、とにかく急いで小人たちの明日のおやつ代を稼がなければならなかったのです。 急がなければ、明日はすぐに来てしまいますからね。 これはこれでいいのです。 もちろん、小人たちは、愛する氷の国の氷河だけに苦労をさせるような真似はしません。 作業着のポケットから顔を覗かせて、小人たちも氷の国の氷河のお仕事の応援です。 「氷河―、揺れるけど頑張ってー!」 「氷河、下見たら恐いから、窓だけ見てた方がいいよー!」 「それにしても、すごい風だね。びゅーびゅー音がするよ」 「なんたって、ここ、60階だもん」 「氷河、落っこちなきゃいいけど……」 自分たちのおやつ代のために頑張ってくれている氷の国の氷河を、小人たちはとても心配していました。 ですから、小人たちは、かわりばんこに作業着のポケットから顔を出して、へっぴりごしの氷の国の氷河を、何度も励ましたり注意したりしたのです。 けれど、運命というものは、なんて残酷なのでしょう。 そんなふうに、氷の国の氷河の身を案じる小人たちの愛が、かえって氷の国の氷河を不幸にしてしまったのです。 氷の国の氷河が、ゆらゆら揺れて不安定なゴンドラに両足を踏ん張り、愛する小人たちのためにせっせせっせとお仕事に励んでいるその時でした。 気流が嵐になったような大風がびゅわ〜★ と吹いてきたのは。 「あ〜れ〜っっ !!!! 」× 15 なんということでしょう。 小人たちは、その大風にさらわれて、どこかに飛ばされてしまったのです。 |