愛と感動の再会を果たした、氷の国の氷河と小人たち。

小人たちを連れて、風の国のさわやかな草原に散歩に来ていた風の国の氷河は、運命の人に巡り会って嬉し涙にむせんでいる小人たちをさわやかに見守りながら、さわやかに困惑していました。
それもそのはずです。

「………小人さんたちの話では、氷の国の氷河は、すごくカッコよくて、スマートで、頭がよくて、優しくて、立ち居振る舞いが優雅で、何でもできる天才……という話だったが……」

それが、聞くと見るでは大違い。
今、風の国の氷河の目の前にいる氷の国の氷河は、ぼろぼろの服を着て、髪も伸びて薄汚れ、無精ヒゲまで生えていて、何より雰囲気がとってもミジメで悲惨で哀れでした。
風の国の氷河が戸惑うのも無理ありません。


けれど、氷の国の小人たちには、そんなことは全然関係なかったのです。

「氷河―っっ、あーん、あーん、あーん !! 」× 15

懐かしい氷の国の氷河に再会できた喜びで、ひたすら泣き続ける小人たち。
愛する小人たちに巡り会えた氷の国の氷河にも、再び生きる力が戻ってきました。

氷の国の氷河は渾身の力を振り絞って身体を起こし、長く辛い放浪の旅の唯一の相棒だったズタ袋から、おみやげの東京バナナと六花亭のバターサンドクッキーとういろうときしめんとうどんと一六タルトと温泉卵とみかんを取り出しました。
それは、氷の国の氷河が、長い放浪の旅の行く先々で、いつか巡り会える小人たちのために用意していた、各地の名産品でした。

「おまえたち、おみやげだぞ」

「わーい !! 」× 15

氷の国の氷河がズタ袋の中から取り出したおみやげに、小人たちは大喜び。
小人たちは、さっそく、氷の国の氷河のおみやげに群がっていきました。

が。

「氷河、これ、いつ買ったの」
北海道名産のバターサンドクッキーにかぶりつきかけていた9号が、ふいに厳しい顔をして、氷の国の氷河に詰問しました。

「え? さあ……1年くらい前だったかなぁ……。ずっと放浪してたんで、カレンダーも時計もない生活が長かったから、はっきりとは憶えてないんだが」

「賞味期限が切れてる」
「え?」× 14
「もう10ヶ月も前に切れてる」
「えええええええ !? 」× 14
「温泉卵は腐ってる」
「えええええええええええーっっ !!?? 」× 14

「あ……あの、それは、つまり……」
小人たちの非難の視線の集中砲火を浴びて、氷の国の氷河はたじたじです。

日雇い仕事をしながら続けていた長く孤独な放浪生活の間、氷の国の氷河は、どんなに自分が飢えていても、小人たちのために買ったおみやげだけは食べずに我慢してきました。
バターサンドクッキーを食べて、いっとき飢えをしのぐより、おみやげをもらった小人たちの喜ぶ顔を思い浮かべている方が、ずっと氷の国の氷河の孤独を慰めてくれるものだったからです。

氷の国の氷河の小人たちへの深く強く激しい愛。
それが、どうやら裏目に出てしまったようでした。






【next】