(ああ、もう、氷河ったらぐずぐずしてないで、皿回しでも何でもして見せればいいのに……!)
子供たちに芸をせがまれておろおろしている氷の国の氷河に、9号はいらいらいら。

なにしろ、小人たちは芸達者ですからね。
芸の一つや二つ、すぐに見せてやればいいのに──と安易に思ってしまうのです。
でも、ある人には超簡単なことを、どんなにどんなに頑張ってもできない人だって、世の中にはいるのです。
何でも自分を基準に考えてはいけません。

(氷河って、皿回しなんかできた?)
(失敗してお皿を割るのがオチだよ。割ったお皿の分はお給料から引かれるからね、皿回しはキケンだよ)
(でも、氷河の得意なことって言えば……)
(ぱんつ作りとか)
(刺繍とか)
(確かに氷河のぱんつ作りと刺繍は天下一品だけど、瞬間芸的なものじゃないから、このシチュエーションには不向きなんだよね〜)
その点に関しては、9号以外の小人たちの方が、現実をよく理解していました。

(今日の仕事が終わったら、氷河に芸を仕込まなきゃ)
仲間たちに一瞬遅れて現状を把握した9号は、さっそく現状を打破する方法を考え始めます。
9号は、いついかなる時でも前向きな小人でした。

(でも、氷河は不器用だから手品とかは難しいよね)
(ミスターまりっこみたいに、すごい事ができればねぇ……)
(昨日のテレビでやってたの、すごかったねー)
(ハンドパワーだったよね!)
(ねぇねぇ、なんで『ミスター』なのに『まりっこ』なんだろうね)
(あ、それ、僕も不思議に思ってたの)

仲間たちが、氷の国の氷河の芸の無さを憂い、ミスターまりっこの謎に悩んでいる横で、9号がひどく深刻な面持ちで呟きます。
(気になる……)

(そうだよね、気になるよね)
(アイスが……)
(アイス?)

9号を深刻に思い悩ませているものは、どうやら、氷の国の氷河の芸の無さでも、ミスターまりっこの謎でもないようでした。


それはともかく、そうこうしている間にも、氷の国の氷河へのお客さんたちの催促は激しくなるばかりです。
「はやくー」
「はーやーく! はーやーく!」
「はーやーくぅー !!!! 」

これが合体瞬からのリクエストだったなら、氷の国の氷河はどれほど幸せだったことでしょう。
もしそうだったなら、そういう幸せに慣れていない氷の国の氷河は、幸せすぎてパニックを起こしていたかもしれませんが、人間は幸せでなくてもパニクります。

氷の国の氷河は、今は、あまり幸せな状況ではありませんでした。
けれど、この窮地を乗り切るため、氷の国の氷河は、氷の国の氷河で、氷の国の氷河なりに精一杯頑張ってみることにしたのです。

「ええええええーと、じゃあ、ダジャレやります」
「わーい! ぱちぱちぱちー!」

「こここここんな時、どうすれバインダー !? 」

「……………………」× 子供たちの数

「あわわわわわ;; 全く受けなくて、クマったなああああああ〜!」

「しーん」× 子供たちの数


──ひよこ組のお部屋の中に漂う、絶対零度よりも冷たい空気。
氷の国の氷河のダジャレは、可愛いひよこ組のお部屋を氷の世界にしてしまったようでした。


氷の国の氷河、絶体絶命の大ピンチ!
はたして氷の国の氷河は、この冷たい氷の世界を、もとの平和なひよこ組のお部屋に戻すことができるのでしょうか !?






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