「ああっ! もうがまんできないっ !! 」
そう叫んで、氷の国の氷河のポケットから飛び出たのは9号でした。

つられて、他の小人たちも、次々に、子供たちが座っているテーブルの上に飛びおります。

「きゃーっ、かわいいー!」
「小人しゃんが出てきたぁー!」
「ぱちぱちぱちぱちぱち〜」× 子供たちの数

お客さんたちは、突然目の前に現れた15人もの小人たちに拍手喝采、大喜び。

(よ、よかった……受けた……)
それは、氷の国の氷河の芸でも何でもなかったのですが、氷の国の氷河は、可愛い小人たちの出現に瞳を輝かせるお客さんたちを見て、ほっと安堵の胸を撫でおろしました。


そんな氷の国の氷河を完全に無視して、9号の叱咤が飛びます。
9号の叱咤は、芸のない氷の国の氷河に対してではなく、ひよこ組の子供たちに向けられていました。
「お客さんたちはなってない!」

9号は、とても厳しい目をしていました。
その厳しい目には、うっすらと涙さえ浮かんでいたのです。

「9号……?」
9号の激昂と涙の訳がわからない氷の国の氷河は、ただただおろおろするばかり。

けれど、9号の怒りも涙も、それは当然のものでした。
「テーブルの上を見て! せっかくのイチゴアイスもチョコレートも、全く手がつけられないまま、溶け始めてるよ! こんなことあっていいの !? 」

「あー、ほんとだー!」
「アイスがでろでろ〜」
「チョコはスライムみたいー」
「これはお菓子に対する侮辱だよー」
9号の怒りと涙の原因を理解した他の小人たちも、この憂うべき事態に眉をしかめます。

「せっかくおいしいお菓子が出てきてるのに、氷河のつまんない芸なんかに気を取られて、食べ時を逃すなんて、もったいない!」
9号の言葉は激烈です。
9号にとって、おいしいおやつは、たとえそれが自分のものでなくても、とても大切でとても重要なものだったのです。

他の小人たちにとっても、それはもちろん同じこと。
「これはもったいないよね。食べ物は大切にしなきゃいけないのに!」
「そうだよねーっっ !! 」× 15

「は……はい〜……」× 子供たちの数

ついさっきまで氷の国の氷河を手玉にとっていたひよこ組のお客さんたちも、おやつを熱愛する小人たちの迫力に敵うはずがありません。
ひよこ組のお客さんたちは、すっかり小人たちの迫力に気押されてしまっていました。


「ま……まぁ、子供たちを怒るのは、それくらいにして──」
「氷河は黙ってて!  これはね、報われないお菓子をこれ以上増やさないようにするために、お客さんたちにちゃんとわかってもらわなきゃいけない、大切なことなんだよ!」
「は……はぁ……」

神様であるはずのお客さんたちが太刀打ちできないのに、氷の国の氷河ごときが小人たちに敵うはずがありません。
氷河の仲裁は、9号によってあっさり却下されてしまいました。



かくして、9号を筆頭教官にした氷の国の小人たちの、お客さん教育が始まったのです。






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