「まぁまぁ、落ち着いて話をしましょうよ」
「……はぁ」

怒鳴るプロデューサー、ひたすら謝るだけの氷の国の氷河、怒鳴るプロデューサー、ひたすら謝るだけの氷の国の氷河──。
この二つの行為が繰り返されるばかりで全く進展のない二人の間に入ってきたのは、今回もまた、ミスターまりっこ その人でした。

まりっこに仲裁に入られると、プロデューサーさんもおとなしくならざるをえません。
まりっこの番組はいつも高視聴率なので、プロデューサーさんはまりっこに頭があがらないのです。


プロデューサーさんが静かになったのを確かめてから、まりっこは、小人たちの方に向き直りました。
「さて……。ちょっと気になったんだがね。さっき言っていた“飛ぶ”ってどういうことなんだい?」

事態の深刻さがわかっていない小人たちは、悪びれる様子もなく、まりっこの質問に、元気にはきはき答えます。
「僕たち、お菓子が大好きなの」
「どこかにある美味しいお菓子のことを想像すると、もう、いてもたってもいられなくなるの」
「それで、気持ちが高ぶってくると、お菓子のあるところに飛んでっちゃうの」
「お菓子のためなら、時空を越えてどこにでも行けるの」

小人たちが突然巨大ケーキのお皿の上に出現したことを考えると、これは嘘ではなさそうだ──そう考えた時、まりっこの頭の中には、この窮状を乗り切るための素晴らしいアイデアが浮かんでいたのです。

「……ふむ。どうだろう、君たち。私と一緒にテレビに出てみないかい?」
「え?」
「番組の収録がもうすぐ始まるんだが、今からケーキを用意し直す時間はないんだ。でも、私の番組を楽しみにしてくれている人がたくさんいるから、番組を中止するわけにはいかないんだよ」

まりっこの番組が中止──。
そんなことになったら、世界中でいちばんがっかりするのは、小人たちだったかもしれません。
「まりっこのテレビが見れなかったら、ショックだよね……」
「うん、ショックだよね」
「そんなの、いやだよね」
「うん、いやだよね」

「だが、君たちの協力があれば、番組は作れるんだ。君たちの、その飛ぶ力を私に貸してくれないか?」

なんてったって憧れのまりっこからのお願いです。
しかも、まりっこと共演できるのですから、小人たちには、まりっこの申し出を断る理由はどこにもありませんでした。

「もちろん! 喜んで協力させてもらいます」
「そうかね。ありがとう、助かるよ」

「でも、僕たちは何をすればいいの?」
「簡単なことだよ。君たちが大好きなお菓子のところへ飛んでくれるだけでいいんだ」
「それだけでいいの?」
「ああ、それだけで十分だ」

「そんなの、おやすいご用だよ」
「うんうん。おやすいご用だよね〜」× 15

ぶっつけ本番のテレビ出演くらいのことで物怖じするような小人たちではありません。
小人たちはやる気満々、むしろ、わくわくするくらいでした。


「君、段取りがちょっと変わるが、構わないだろう?」
「は……はぁ……」
まりっこの提案に頷きながらも、プロデューサーさんは目一杯不安そうです。

本来、マジックというものは、入念な準備をして行なうもの。
段取りがひとつ、タイミングが1秒違っただけで、大失態をさらすことになる、とっても難しい出し物なのです。

けれど、そんなプロデューサーさんの不安をよそに、小人たちは大張り切り。
早速、スタジオの脇に置いてあった鏡の前で、身だしなみのチェックや決めポーズの練習です。



「え? えええ !? テレビ出演? ええええええ〜〜〜っっ !?!? 」

この急展開についていけずに、プロデューサーさんの横でぽけら〜☆ としていた氷の国の氷河が、やっと事態の把握ができるようになった時、ミスターまりっこショー担当のディレクターさんは既に収録開始のカウントダウンに入っていました。


「3、2、1、キュー!」

ひょんなことから、テレビ出演することになってしまった氷の国の小人たち。
はたして、どんな奇跡の映像が出来あがるのでしょうか── !?






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