この時点で、アルゴルには余裕と自信がありました。

アルゴルの目に、氷の国の氷河は、うだつの上がらないつまらない男に見えていました。
3ヶ月くらい使い込んだボロゾーキン程度の価値しかない男にしか見えていなかったのです。

そんな男しか知らない合体瞬の目を覚まさせ、合体瞬の気持ちを自分に向けさせることなど、朝ご飯の準備より簡単なことに違いないと、アルゴルは自信満々で思っていたのでした。


石の国でのアルゴルの地位は、かなり高いものでした。
石の国は豊富な鉱物資源のおかげで豊かな国でしたが、反面、その豊かさを狙ってやってくる不届き者も多いのです。

そういう悪人たちから国を守るのが“勇者”です。
自らの力と技量で国を守る勇者は、国民の英雄なのです。

ちなみに、勇者にもランクがあって、1番下が青銅の勇者、次が白銀の勇者、最高位が黄金の勇者。
アルゴルは、限りなく黄金の勇者に近い白銀の勇者でした。

現在の石の国の勇者の構成は歴代最強で、その勇猛果敢なことや屈強さは近隣諸国にも伝わっていました。
(物騒なことに無縁な氷の国には伝わっていませんでしたけどね)

そんなわけで、最近では、石の国にやってくる悪人も減り、石の国の勇者たちは開店休業状態。時間を持て余したアルゴルは、ここいらで身を固めてみるのもいいかもしれないと考えて、ペルセウス特急便のおにーさんに身をやつし、理想の恋人探しをしていたのでした。


「見えてきたぞ。石の国だ」
「わぁ……! すごい! 建物だけじゃなく、道まできらきらしてる!」
「瞬が来たら、うちの屋敷のパティシエールが喜ぶな。俺は甘いものをあまり食わないから、普段振るえない腕を喜んで振るうだろうよ」
「それほんと? わあ、楽しみだなぁ」

瞳を輝かせて喜ぶ合体瞬の様子にまたひとつ自信を得て、アルゴルは不適な笑みを浮かべました。

権力、おやつ、光り物。
この三つが揃ったいい男が、へろへろでキツツキでボロゾーキンな氷の国の氷河に負けるはずがありません。
ペルセウス特急便のおにーさん改め石の国の勇者アルゴルは、合体瞬と過ごす自分のバラ色の人生を確信しきっていたのでした。



さて。
そんなふうに、石の国の勇者アルゴルが、着々と合体瞬攻略にいそしんでいる頃、氷の国の氷河は──。






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