ミロが、スコーピオン運輸の派手派手トラックを停めたのは、石の国の都にある彼の屋敷の前でした。
トラック運転手のにーちゃんの家とも思えない立派な大理石造りのお屋敷の前で、氷の国の氷河は、強くたくましい勇者らしく! 大層おどおどしていました。

それだけならまだしも、
「あっちに見えるのが、アルゴルの屋敷だ」
と言いながら、ミロが爪をきらめかせつつ指差した先に、やっぱりとっても立派なお屋敷が、どででででん★ と建っているのを見て、氷の国の氷河の心は、ますます萎縮してしまったのです。

石の国の勇者たちの家は、ちんまり可愛い氷の国の氷瞬城とは、その規模からして段違い。
氷の国の氷河の目に、それは、有明ビッグサイトくらい大きなお屋敷に見えたのでした。


けれど、氷の国の氷河は、ここで気後れしているわけにはいきませんでした。
もしかしたら今頃、あの立派なお屋敷の奥の一室で、氷の国の氷河の大事な合体瞬が、危険な目に合っているのかもしれないのです。
氷の国の氷河は、ここですごすごと引き返すわけにはいきませんでした。

ですから、氷の国の氷河は、愛する合体瞬のために、普段使ったことのない脳ミソをフル回転させたのです。
そして、氷の国の氷河は、大名案を思いつきました。

すなわち、
(セ……セールスマンの振りをしたら潜り込めるかな……?)
──です。
なんて勇者らしいアイデアなんでしょう!


ともあれ、大名案を思いついた氷の国の氷河は、早速、これだけはいつも肌身離さず持っているソーイングセットをポケットから取り出しました。
そして、ミロに頼みました。

「あの〜、すみませんが、俺に風呂敷を何枚か分けてくれませんか〜? それに刺繍をしてタペストリーに仕上げて、タペストリーのセールスマンの振りをして、あの屋敷に潜入しようと思うんですが〜」
「へ?」
「あ、適当な布がなかったら、パッチワークも得意なんで、ハギレでもいいんですが〜」
「あああああ??」

奪われたお姫様を取り返すために刺繍を始める男なんて、滅多にいるものではありません。
スコーピオン特急便のおにーさん こと 黄金の勇者ミロは、氷の国の氷河の策略(?)を聞いて、呆れかえってしまったのです。

あくまでも弱者の味方である勇者ミロは、それでも、氷の国の氷河に、ハギレと言うには上等すぎる布を何メートル分も分けてやりました。
氷の国の氷河の策略があまりにも哀れだったので、ミロは彼の望みを叶えてやらずにはいられなかったのです。


本当は、ミロは、氷の国の氷河に自分のお供の振りをさせて、アルゴルの屋敷を訪ねるつもりだったんですけれどね。
ついでに言うなら、氷の国の氷河は、森のキツネさんに姿が見えなくなる魔法の兜ももらっていたんですけどね。

おそらく氷の国の氷河は、愛する合体瞬を奪われたショックで、まともな判断力を失ってしまっていたのでしょう。
そういうことにしておいてあげるのが、武士の情けというものです。


ともかく、氷の国の氷河は、これだけはおそらく府中一! ──もとい、宇宙一! の刺繍技で、あっという間に、それは見事なタペストリーを何枚も仕上げたのでした。






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