ともあれ、ミロは走り出しました。 さすがは黄金の勇者ミロ、そのスピードはスコーピオン特急便のトラックよりも速い、速い、速い! 目指すサファイアの時計台の前に、あっという間に到着です。 が、その付近には何ということもないカップルが何組かいるだけで、アルゴルの姿も、彼と一緒にいるはずの可愛子ちゃんの姿もありませんでした。 その時になってやっと、黄金の勇者ミロは、自分の判断ミスに気付いたのです。 「しまった。アルゴルは勇者でも何でもないフツーの人間と一緒なんだった! さては、あんまり急いだせいで、気付かぬうちに、二人を追い越してきてしまったか……!」 もちろん自覚はありませんでしたが、黄金の勇者ミロも、結構お約束通りのギャグをかます、おもろいにーちゃんの一人だったのです。 「あの〜、瞬はここにはいないんですか〜?」 「おわっっ!」 その時です。 突然背後からぬぼ〜っ★ と響いてきた氷の国の氷河の声に、ミロは超ドびっくりしてしまいました。 刺繍だけが取りえのマヌケ男が、まさか自分のスピードについてこれるとは、彼は思ってもいなかったのです。 しかし、愛は不可能を可能にします。 愛だけが、奇跡を起こす原動力なのです。 「あ……ああ、二人はまだここに着いていないようだな。あと2分ほどで、時計台のからくり仕掛けが動き出すんだが……」 「からくり仕掛け? それは何ですか〜?」 「だから、この時計はからくり時計で、そのからくり仕掛けを見たカップルは――」 ――と説明しかけて、ミロは口をつぐみました。 真の勇者は、ウサギを捕らえるにも全力を尽くします。 真の勇者は、油断大敵という言葉の意味を知っているのです。 こんなうだつのあがらない男が自分のライバルになれるとは思いませんでしたが、とりあえずミロは、氷の国の氷河に時計台の伝説(?)は知らせずにおいた方が無難だろうと判断しました。 もっとも、ミロの目には、氷の国の氷河はか弱いウサギ以下の男に見えていたんですけどね。 |