哀れで不運で情けない本来の自分を取り戻した氷の国の氷河。
彼は、彼の小人たちが、アルゴルとミロにぽかぽか攻撃を仕掛けているのを見て、大慌てに慌てました。

「おまえたち! よその人にそんな乱暴を働いちゃダメだぞっ」
自分が、“そんな”どころではない乱暴を働こうとしていたことを忘れたのか憶えていないのか、氷の国の氷河は、そう言って、小人たちのぽかぽか攻撃をやめさせようとしました。

けれど、さっきまでの氷の国の氷河同様、小人たちも、今はすっかり普段の冷静さを欠いていたのです。

ぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽか × ∞

「おまえたちっ! おまえたちがそんなことしちゃダメだ! 今すぐやめないと、明日のおやつ抜きだぞ!」

ぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽか、ぴたっ☆

『おやつ抜き』の一言の効果は絶大でした。
氷の国の氷河のその言葉を聞いた小人たちのぽかぽか攻撃の手が、ぴたりと止まります。
でも、それでも、小人たちの正義の怒りは簡単に静まるようなものではなかったのです。

「だって、この人たちが、僕たちの氷河に……!」
「氷河にひどいことしようとしたんだもん!」
「この人たちは悪い人たちなんだ!」
「僕たちを本気で怒らせたんだ!」
「僕たちが悪いんじゃないもん!」
「この人たちの罪だもん!」
「なのに、おやつ抜きなんて、ひどいー!」
「どーしてなのーっっ !! 」

「あーん、あーん、あーん !! 」× 15

アルゴルとミロは、突然出現したかと思うと、突然ぽかぽか攻撃を仕掛けてきて、突然わんわん泣き出した15人の小人たちに、ただただ、あっけにとられるばかりです。


盛大に泣き叫んでいる小人たちに、氷の国の氷河は優しく微笑んで言いました。
「ああ、おまえたち、泣くんじゃない。おやつ抜きなんて嘘だよ。さあ、こっちにおいで」

「あーん、あーん、あーん !! 」× 15
小人たちが、泣きながら、ミロとアルゴルから離れ、わらわらわらと氷の国の氷河によじ登ります。

「よしよし、いい子だ。おまえたちが生きて元気でいてくれさえすれば、俺はそれでいいからな。それだけでいいんだよ」
氷の国の氷河は、彼の可愛い小人たちの頭を順々に人差し指で撫でながら、そう言いました。
氷の国の氷河は、本当にそれだけでよかったのです。

彼の小人たちが、生きて、元気でいてくれさえすれば。

「氷河―っっ !! 」× 15

――怒りに燃えている時よりも、悲しくて悲しくてたまらない時よりも、優しくしてもらった時の方がずっとずっとたくさんの涙が出てくるのはなぜなんでしょうね。
氷の国の氷河に優しく頭を撫でてもらった小人たちの泣き声は、ますます大きくなるばかりでした。


氷の国の氷河の腕の中で、わんわん泣いている小人たちを言葉もなく見詰めながら、そうして、ミロとアルゴルは、この世界と自分たちが崩壊の危機を免れたことを、勇者の勘で悟りました。

美しい石の国は、幸運にも、その美しさを失わずに済んだのです。






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