「俺は行くぞ」 しばらくして。 それまで、氷の国の氷河にしがみついて泣いている小人たちをぽけら〜っ☆ と眺めているばかりだったミロが、唐突に口を開きました。 「どこへだ」 アルゴルに尋ねられたミロが、固い決意をたたえた眼差しで、きっぱりと宣言します。 「決まっておるだろうが。消えた俺の可愛子ちゃんを探しに行くのだ」 「消えた……?」 「そうだ。おそらく、俺と貴様の勇者パワーがぶつかり合ったせいで時空に歪みが出来てしまい、あの可愛子ちゃんは、その歪みに巻き込まれて、どこかに飛ばされてしまったのだ」 どうやらミロの頭の中には、小人たち=合体瞬という図式は、これっぽっちも浮かんでいないようでした。 やはり、石の国の勇者たちは、体は光速で動いても、脳みそは光速で動かないんですね。 「ア……アナザー・ディメンションか……?」 「それ以外、考えられん。多分、飛ばされた可愛子ちゃんのいた空間の質量の埋め合わせのために、あの小人たちが入れ替わりに飛ばされてきたに違いない」 「なるほど」 「おそらく、そう遠くに飛ばされた訳じゃないだろう。待ってろ、俺の可愛子ちゃん、俺が必ず見付けて救い出してやる!」 「ちょっと待て。貴様、さっきから『俺の可愛子ちゃん』と連発してるが、聞き捨てならないな。あの子は俺の運命の人だぞ」 「ふっ……。俺と貴様のどちらが、あの可愛子ちゃんの相手にふさわしいかは、考えるまでもない自明の理」 「まったくもって、その通り。それは、すなわち──」 「俺が勝つということだーっっ !! 」×2 光速で動かない頭を持った勇者二人は、どういう状況にあっても、勇者らしく強気で、めげるということを知りません。 睨み合う二人の背景に、ごごごごごごごぉ〜★ と暗雲が渦巻くや、空中にそれぞれの守護神である蠍とメドゥーサが浮かび上がり、こちらも睨み合いを開始です。 「いいか、お前たち。あれを見ちゃだめだぞ。とっても怖い怪物がいるからな」 「あ〜ん、氷河ぁ〜!」× 15 小人たちは、その恐ろしい光景に怯え、氷の国の氷河の胸の中でぷるぷる震え出しました。 氷の国の氷河が、地獄の悪夢から庇うようにして、しっかりと小人たちを抱きかかえます。 アルゴルとミロの視界には、けれど、もう、そんな氷の国の一行の姿は映っていませんでした。 彼等の目に映っているのは、まるで魔法にかかったように消えてしまった幻の可愛子ちゃんの姿だけ。 ミロとアルゴルの手がゆっくり動き始めます。 二人の手は半円を描き、天空を指差し、それから、彼等は叫びました。 「カモ〜ン! 俺のゴールデン・スペシャル・アンタレス号!」 「ハリーアップ! 俺のシルバー・ゴージャス・ゴルゴン号!」 途端に、地平の彼方から唸りをあげて、何かがものすごいスピードで、二人の勇者のいる場所目指して走ってきます。 それは、アルゴルとミロのマイ・トラックでした。 「いいか、先に可愛子ちゃんを探し出し、この時計塔でカラクリ仕掛けを一緒に見た者の勝ちだぞ」 「いいだろう。さっきのように邪魔はさせないぜ!」 二人の勇者は、改めて、互いに宣戦布告。 そして、光速で、マイ・トラックに飛び乗りました。 『ミロ様、準備はよろしいですね』 『 Ready Go ! 』 ゴールデン・スペシャル・アンタレス号とシルバー・ゴージャス・ゴルゴン号のスタートの合図で、二人の勇者は、エンジン全開で、B'tならぬマイ・トラックを急発進。 そんなふうにして、二人の勇者たちの新たなる旅立ちの物語は、実に唐突に始まったのでした――。 |