――と、勿体をつけても始まりません。


そこで、みしぇ氷河さんときゃわ氷河が見たものは、大きな手に小さなトーンナイフを握りしめ、原稿用紙にモザイクトーンを貼っているたれたれ氷河さんの姿でした。


「た…たれたれ氷河……?」
「おまえ、何やってるんだ?」


事の次第が飲み込めず、唖然としているみしぇ氷河さんときゃわ氷河に、たれたれ氷河さんが事もなげに言い放ちます。
「見てわからんか? 原稿の検閲を兼ねた仕上げ作業だ」

「検閲……?」
「仕上げ……?」

言葉の意味が理解できることと、納得するということは全く別のことです。
訳がわからず、呆然自失のみしぇ氷河さんときゃわ氷河に、たれたれ氷河さんは、意味だけが理解できる説明をしてくれました。

「瞬の作品には、描写が露骨なところと、少々事実を曲げて描かれている部分がある。仕上げも実に雑だ。16ページ中8ページは描き直しを命じ、あとの部分は俺がこうして手伝ってやっているんだ。瞬はどこだ? 泣いていても原稿はあがらないんだから、早く描けと言ったのに……」

「…………」
みしぇ氷河さんは絶句しました。

「…………」
きゃわ氷河も絶句しました。


二人が何とか気を取り直すのに要した時間は、優に15分。


「たれたれ氷河、おまえ、平気なのか? 瞬たちが作ろうとしてるのは夜の生活暴露本なんだぞ!」
「暴露されて困るような中途半端な夜は過ごしておらん」
「う……」
みしぇ氷河さんは、反駁の言葉が出てきません。

「しかし、瞬というのはだな、戦場に咲いた一輪の花、清く正しく美しくというイメージが何よりも大事だろーが!」
「夜もそれではつまらんな」
「む」
きゃわ瞬がたれたれ氷河さんに対抗できるはずがありません。


「俺は、瞬のしたいことを妨げる気はない。しかし、俺たちの夜の生活を人目にさらすというのなら、真実をありのままに、描写は霧のベールに包むべきだと思う。だから、過酷とは思ったが、俺はあえて瞬にリメーク指示を出したんだ」


瞬ちゃんズの活動にいちばん強い反対姿勢を打ち出すだろうと思っていたたれたれ氷河さんにそう言われてしまっては、みしぇ氷河さんもきゃわ氷河も黙るしかありませんでした。

なにしろ、みしぇ氷河さんにもきゃわ氷河にも、自分の瞬に勝てる自信が全くなかったのです。
唯一、もしかしたら“瞬に勝てる氷河”かもしれないたれたれ氷河さんが、たれたれ瞬ちゃんの同人誌活動を許すというのなら、もう瞬ちゃんズの行く手を遮ることはできません。


そんなわけで、結局、氷河たちは、瞬ちゃんズのサークル活動を認めることになってしまったのでした。