しかし、それからまもなく、氷河たちは、予想もしていなかった事態と対峙することになったのです。


自分たちの本を出そうと決めた瞬ちゃんズ。
しかし、その瞬ちゃんズには、編集能力というものが全く、全然、からっきし、無かったのです。

それが露呈されたのは、瞬ちゃんズサークル初めての本の編集合宿の時でした。


記念すべき、瞬ちゃんズサークル第1冊目の本の編集作業は、たれたれ氷河さん&瞬ちゃん宅で、夜っぴいて行なわれることになりました。

当然、みしぇ氷河さんときゃわ氷河も、自分の瞬に付いていきます。
きゃわ氷河は、自分の瞬がたれたれ氷河に目移りしないかと不安を覚えて。
みしぇ氷河さんは、一般人には滅多に見ることのできない修羅場というものを見物するために。



たれたれ氷河さんのリメーク指示の嵐をくぐり抜け、なんとかあがったたれたれ瞬ちゃんの原稿を見ながら、瞬ちゃんズは、もうすっかり本が出来てしまったような気分です。

「あとは編集するだけだね〜」
「これなら明日の入稿締め切りに間に合うね」
「うん、ごめんね、みしぇ瞬ちゃん、きゃわ瞬ちゃん。僕の原稿がなかなかあがらなかったばっかりに……」
「たれたれ瞬ちゃんのせいじゃないよ。僕の氷河がたれたれ氷河さん並みに厳しい氷河だったら、僕なんかきっとまだ原稿あがってないもん」
「そーだよ、全然気にすることないよ」
――てな調子で、和気あいあいと始まった瞬ちゃんズの編集作業でしたが……。


たれたれ瞬ちゃんの編集作業は、異常な程ゆっくり丁寧なものでした。

きゃわ瞬の編集作業は、たれたれ瞬ちゃんに輪をかけてスローモーで、とろとろてれてれしていました。

そんな二人を見て、これでは締め切りに間に合わないと考えたみしぇ瞬ちゃんが、一人でばーっっ☆ と編集作業を片付けていったのですが、作業がほぼ終わりかけた頃に、1ページ穴が出ることが判明したのです。

当然、ノンブルは半分以上打ち直しです。

瞬ちゃんズは、慌てて穴埋めのために誌上対談を始めました。



事ここに至って、3人の氷河たちは、もはや、瞬ちゃんズの編集作業を手をこまねいて見ていられなくなってしまったのです。
明日の朝いちばんで入稿しなければならないというのに、瞬ちゃんズの編集作業はちっとも進んでいないのですから。


見兼ねたたれたれ氷河さんは、ページ割一覧を見ながら、目次の作成にとりかかりました。
見兼ねたみしぇ氷河さんは、奥付ページ作成と表紙用のレタリングを始めました。
見兼ねたきゃわ氷河は、間違ったノンブルの消去と正しいノンブル振りを始めました。


そんな編集作業の傍ら、瞬ちゃんズの原稿を見ては、
「ああっ、こんなところにベタの塗り忘れがっっ!!」
だの、
「消しゴムが綺麗にかかってないじゃないかっ!」
だの、
「えーい、このページにも誤植があるっっ!!」
だの言いながら、氷河たちは原稿のミスの修正作業もこなします。



そして、

瞬ちゃんズの穴埋め原稿は程なく終わりました。

氷河たちの編集作業は終わりません。

瞬ちゃんズはおやつを食べ始めました。

氷河たちの編集作業は続いています。

瞬ちゃんズはお夜食を食べ終わりました。

氷河たちの編集作業はまだ終わりません。

瞬ちゃんズは眠くなってきました。

氷河たちは眠るどこではありません。

瞬ちゃんズは眠ってしまいました。

氷河たちは徹夜しました。



そうして迎えたさわやかな朝。
原稿はもちろん、完璧に編集されてテーブルの上に鎮座ましましておりました。


「わーい、間に合ったーっっ !! 」×3
瞬ちゃんズは、自分たちが苦労に苦労を重ねて作り上げた完璧原稿に、大歓声。

「よかったー、頑張った甲斐があったね!」
「うん、ほんとだねっ」
「僕たちの初めての本だーっっ!」


喜びに沸き立つ瞬ちゃんズに、徹夜明けで疲れきっている氷河たちは何も言うことができませんでした。

けれど、おそらく、氷河たちは、疲れていなくても何も言いはしなかったでしょう。
彼等の愛する瞬ちゃんズが、明るく幸せそうな笑顔を見せてくれているのです。
氷河たちの苦労は、見事に報われたのですから。