聖域の教皇位が空位になったいきさつがいきさつでしたから、教皇代理に任命された時、祭壇座の聖闘士にして助祭長のニコルは、とってもとっても緊張しました。

それまでは、何はともあれ教皇がいて、それから黄金聖闘士たちがいて、ニコルは彼等の言うことを聞いているだけでよかったのに、今度からは色々なことを自分で考えて決めていかなければならないのです。

もともと生真面目で人一倍責任感が強かったニコルは、自分に与えられた重責を、実際の倍も重いものに感じていました。
その苦慮ぶりといったら、地上の平和のためにならアテナも殺しかねないほどだったのです。


そのせいで、ニコルはいつも鹿爪らしい顔で、ぶすっ。

ニコルが教皇代理になってから、彼の笑顔を見た者は、聖域には誰ひとりいませんでした。
彼の表情は、女聖闘士の仮面なんかよりずーっと硬くて強張っていて、まるでお能のお面のようでした。






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