ある日のことです。

ニコルは、聖域の教皇の間からアテナ神殿に続く石段の脇に、なんだかとってもアヤしい壺が置いてあるのを見つけました。

その壺といったら、もう本当に、見るからにアヤしいのです。
壺の側面には、これ以上ないくらいアヤしくにま〜vと笑っている、最高級にアヤしく不気味な笑顔が貼りついていました。

よく見てみると、そのアヤしい笑顔にはちょっと愛嬌もあったのですが、クソ真面目でシリアス一辺倒のニコルには、そんなココロのゆとりはありませんでした。


「なんだ、このアヤしい壺は!」

普通の人なら――いいえ、ニコルだって、教皇代理なんかに任命される前だったら――その壺に貼りついているアヤしい笑顔には大笑いしていたことでしょう。
けれど、今のニコルは、自分の両肩に乗せられた重責のせいで、ただひたすらにクソ真面目。

「もしかしたら、これは、邪悪な神を封じた壺かもしれないぞ」

そう考えて、ニコルは、そのアヤしい壺を、慎重に慎重に、足許に気をつけながらアテナ神殿へと運んだのです。
アテナの威光に満ちた神殿の中なら、邪悪な神も悪事はできないに違いないと思ったからでした。






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