atenasaori_ojyoの嵐が去ったあとの氷の国の氷瞬城は、重力が10倍になったような、おも〜〜い空気に包まれていました。

あの9号にも為す術なしなのですから、その空気の重さも推して知るべし。
それは、氷の国始まって以来の大ピンチでした。


「財政破綻の危機だ……」

「……ザイセイがタンになるとどうなっちゃうの?」
「わかんない……」

「国自体が倒産の危機だから損失補填もできないし」

「父さんが危ないの?」
「僕たちで助けられるかしら?」

「……タンなら焼肉の材料になるし、父さんはお給料を運んでくれるんだけど、破綻も倒産も何の役にも立たない……」

「9号……」
「僕たち、どうなるの……?」


重力に加え、温度まで10度程下がりそうになった時、ぴろりろり〜〜ん♪ とパソコンのスピーカーから軽快な音が鳴って、おつかいのウサギがメールを運んできました。


「お前たちの好きなウサギさんがきたぞ。見ないのか?」
ずどーん★ と暗く落ち込んでいる小人たちを少しでも浮上させたくて(もしかしたら、氷の国が置かれている苦境がわかっていないだけなのかもしれませんでしたが)、氷の国の氷河の声は平和&呑気の極みでした。

「ウサギさんていったら……」
「たしか、たれたれ瞬ちゃんのペットさんだね」
「タンで父さんになっちゃったら、もうたれたれ瞬ちゃんのケーキも食べられなくなっちゃうのかな……」
「そ……そんな悲しいこと言わないでよ〜」
「そんなのいやだよ〜」

「みんな落ち着いて。氷河、たれたれ瞬ちゃんのメール読んで」
いちばん現状を正確に把握しているにも関わらず、いちばん最初に立ち直ったのは9号でした。

9号の指示に従って、氷の国の氷河がたれたれ瞬ちゃんからのメールを読み上げます。
「ああ。
『親愛なる小人さんたち、氷の国の氷河さん。
お元気ですか。
こちらは毎日暑いです。
うちの氷河なんか溶けそうになってます。
夏休みになったので、氷河が溶けてしまわないうちに、そちらへ避暑を兼ねて遊びに行ってもいいですか?
新作のアイスクリームケーキを持って行きます』

――だってさ。
よかったな。たれたれ瞬ちゃんが来てくれるぞ」

小人たちは『新作のアイスクリームケーキ』という一文にちょっとときめきましたが、今は国家の一大事、喜びのダンスを踊る気力はまだ湧いてきませんでした。


ところで、たれたれ瞬ちゃんのペットはどこかで寄り道をしていたようでした。
メールの追伸を読んだ氷の国の氷河が、
「……なに !? 今日来る〜〜 !? 」
と、奇声をあげた途端に、
「ごめんくださ〜い」
と、氷瞬城の玄関ホールからたれたれ瞬ちゃんの声が聞こえてきたのです。


とってもとっても心細い気持ちになっていた小人たちは、急の来客に驚きもせず、氷瞬城の玄関に飛んでいって、たれたれ瞬ちゃんにしがみついて泣き出してしまいました。

「あ〜ん、あ〜ん」
「父さんが、父さんが〜!」
「羽がある宇宙人が来たの〜」
「火星人もきたの〜」
「おやついらないって言うの〜」
「ダンスも見ないって言うの〜」
「お茶もいらないって言うの〜」
「特別なエサをあげないと牛になるの〜」
「僕たちの氷河が便所コーロギだって言ったの〜」
「僕たち、鍵盤を売れないって言ったから、タンになっちゃうの〜」
「医薬品をたくさんよこせって言うの〜」
「僕たちのことバカって言ったの〜」
「怖かったよ〜!」
「僕たち、とっても困ってるの〜」

「あ〜ん、あ〜ん、あ〜ん !!!! 」× 15


「こ……小人さんたち、いったいどーしたの !? 」
いつも明るく元気いっぱいの小人たちの大粒涙を見せられて、たれたれ瞬ちゃんは困惑顔。
たれたれ瞬ちゃんは、泣き叫ぶ小人たちをなだめるのに、ひと苦労することになってしまったのでした。