親切でくさい金色の英雄さんは、今年も、小人たちのために必死になって栗の実を落とし、汗みずくになりながらイガイガを取り除いてくれました。

「金色の英雄さん、今年も匂うねぇ(ひそひそ)」
「うん、親切だけど、やっぱりくさいよねぇ……(こそこそ)」

親切でくさい金色の英雄さんは、朝からずっと銀杏の木の下で、かぐわしいぎんなんの香りに包まれていましたから、今年もしっかり、かぐわしいぎんなんの匂いが全身に染みついてしまっていたのです。

「お〜い、たくさんとれたぞー!」

「わ〜い!」
(うっ……)
「金色の英雄さん、どうもありがと〜!」
(くさいよ〜)

小人たちは、親切でくさい金色の英雄さんのかぐわしい香りに(今年も)悶絶しかけていました。
けれど、親切でくさい金色の英雄さんの足元には、おいしそうな栗の実が山積み。
栗の実はとっても欲しいのですが、金色の英雄さんの匂いはとってもとっても強烈です。
小人たちは、おいしそうな栗の実の側に駆け寄りたい気持ちと、親切でくさい金色の英雄さんの匂いを恐れる気持ちとの板ばさみで、その場に立ち往生していました。

ところで、親切でくさい金色の英雄さんは、今年はちゃんと、小人たちが自分の側に寄ってこない訳がわかっていました。
ですから、親切でくさい金色の英雄さんは、
「いえいえ、困った時にはまたお声をかけてくださいね」
と言うと、すぐに白い手拭いを金色の森になびかせて、疾風のようにその場から走り去っていったのです。
親切でくさい金色の英雄さんは、氷の森を出るまでに、何度か銀杏の葉っぱに足を滑らせて転んだりしたのですが、それは小人たちの知らない話。

親切でくさい金色の英雄さんの姿の消えた氷の森で、小人たちは、親切の見返りを求めない金色の英雄さんの態度に、真のおとこを見たような感動を味わっていたのでした。

けれど、それよりもっと大きな感動は、おいしそうな栗栗栗の実です。

「これで、今年も、おいしいマロングラッセが食べられるー!」
「マロンカスタードパイも」
「マロンタルトも」
「それから、それから、モ・ン・ブ・ラ・ン〜♪」
「わーい !!!! 」× 15

小人たちは、つるつるで茶色い栗の実を眺めたり抱きしめたりして、もううっとり。
栗の実って、どうしてこんなにつややかで、あたまのとんがり具合いがキュートで、触り心地がよくて、可愛らしい様子をしているんでしょう。
チャーミングな栗の実の変身後の姿(とお味)を想像すると、それだけで小人たちの心はうきうき、どきどき。
まるで恋をしているみたいに幸せな気分になるのでした。











ところが。

幸せいっぱい夢いっぱい、ふんわり ふわふわ ほのぼの気分の仲間たちから離れて、栗の抜け殻イガイガの前に立つ小人が約一名。
それはもちろん、言わずと知れた9号でした。