氷の国の氷河と親切でくさい金色の英雄さんの仲を誤解して(?)、氷の国の氷河を責める小人たち。

いつもの氷の国の氷河なら、ここで、
『おまえたち、それは誤解だーっっ !!!! 』
――と、哀れな悲鳴を響かせていたことでしょう。
けれど、今日の氷の国の氷河は、いつもとちょっと違っていました。

小人たちに小さな手でぽかぽかぽかぽかぽーと叩かれても、氷の国の氷河は本当のことを小人たちに言う気にはならなかったのです。
だって、正体不明の正義の味方は、正体不明だからカッコいいのです。
それに、せっかくこれまで正体不明の親切な英雄で通してきたのに、突然正体を明かしてしまったら、小人たちががっかりしてしまうかもしれませんしね。

とはいえ、親切でくさい金色の英雄さんの正体を知ったら、小人たちががっかりするに違いないというのは、氷の国の氷河の思い込みにすぎませんでしたけれど。
そして、その思い込みが実は大いなる誤解で、金色の英雄さんの正体を知ったとしても、小人たちはおそらくがっかりしたりしないだろうというところが、氷の国の氷河の哀れなところだったのですけれど。

それでも、とにかく、親切でくさい金色の英雄の存在を信じている小人たちの夢を壊してしまうことは、氷の国の氷河にはできませんでした。
本当は、あのジャムは、今朝小人たちの朝ごはんの準備中についたものだなんて、そんな本当のことは絶対に絶対に言えなかったのです。

「あ……ああ、な……内緒にしていて悪かったな。あ……あの金色の英雄は、その、もしかしたら、これからおまえたちのために頑張ってくれるのかもしれないと思って、だから、その、栄養をつけてもらおうと思──」
「それなら、梅ジャムの方が身体にいいでしょ! どうして梅ジャムの方をあげなかったの!」
「そうだよ! 氷河のサツマイモジャムが僕たちの大のお気に入りだってことは、氷河だって知ってるはずなのに!」

氷の国の氷河のしどろもどろの弁解が、氷の国の氷河に秘密を持たれたせいで悲しみに沈んでいる小人たちに通じるはずがありません。
氷の国の氷河は、やっぱりしどろもどろで、小人たちに謝ることしかできませんでした。
「そ……そうだな。俺が悪かった。ら……来年はきっとそうするから」

「ほんと?」
「約束する?」
「僕たちのジャムを、他の人にこっそりあげたりなんかしない?」
「もう、僕たちに秘密なんか作らない?」

「ああ、もちろんだ」
「ならいいけど……」

氷の国の氷河は、頭を下げる代わりに、人差し指の先っちょで、小人たちの頭をひとりひとり撫でてあげました。
それはもちろん、氷の国の氷河が頭を下げてしまったら、氷の国の氷河の頭や肩に乗っかっている小人たちが落っこちてしまうからです。

ともあれ、そんなふうに氷の国の氷河に頭を撫で撫でしてもらった小人たちの怒りは、少しずつ収まってきました。
なにしろ、氷の国の氷河に頭を撫で撫でしてもらうと、小人たちは、おいしいケーキを10個も食べた時みたいに、ふんわりいい気分になるんですからね。

「とにかく、氷河と僕たちの間に秘密があるなんて、絶対に許せないからね。今度、氷河が僕たちに秘密を作ったりなんかしたら、僕たち、悲しくて家出しちゃうから」
氷の国の氷河に頭を撫で撫でされて、ほわわ〜んと緩みかけている顔を無理に引き締めて、9号は厳しい声で氷の国の氷河に宣言しました。

「そんなこと、もう絶対にしないから、俺を許してくれ」
氷の国の氷河は、小人たちの誤解を解こうともせずにそう言って、(頭を下げずに)もう一度、小人たちに謝ったのでした。