けれど、その白い物体は、ほのかに微笑んで、13号に告げたのです。
「俺は、君たちの氷河の生霊なんだ」

「いきりょう?」
「うん。そう、生霊」
「そーいえば……なんだか、僕たちの氷河より……」
「君たちの氷河より?」
「せくしーな目をしてる……」

生霊さんは、13号のその言葉に、少しびっくりしたようでした。
「へえ、セクシーなんて言葉を知ってるんだ。すごいな」

「すごくないもん。僕なんか、9号に比べると何にも知らないもん。僕なんか、ばかだもん。カレーパンだもん」
「そんなことないだろう」
「いきりょうが何なのかも知らないもん」

13号の正直な告白に、生霊さんは、今度はちょっとずっこけてしまいました。
「んー、俺はね、君たちの氷河の心の一部なんだ。君たちがあんまり可愛いんで、君たちの氷河に追い出されてしまった」

「氷河の心の一部?」
「そうだよ。合体した君たちを抱きしめたいっていう氷河の心が、俺なんだ」
「氷河は、僕たちを抱っこして、ちゅうもしてくれるよ。氷河は僕たちが大好きだって。僕たちも氷河が大好きだもん。どーして合体しなくちゃならないの?」
「君たちに、その理由がわかるまで、俺はずうっとこの城の中をさまよっていなきゃならないなぁ…」
「え……?」

憂いを帯びた生霊さんの瞼が寂しげに伏せられるのを見て、なぜか突然、13号は胸をきゅ〜ん☆ と締めつけられたような気持ちになってしまったのです。
「な……何だかよくわからないけど、生霊さん、かわいそう〜! あーん、あーん、あーん」

大声であんあん泣き出した13号を見て、 生霊さんは、そのセクシーな目をちょっと細め、セクシーな声で、しみじみ呟きました。
「……俺が追い出されるわけだ」

生霊さんは、そうして、その手を13号の方に伸ばしてきましたが、なにしろ実体のない生霊なので、彼は13号に触れることはできません。
生霊さんは、13号の前にしゃがみこみました。

「可愛いねぇ。早く大人になってくれると嬉しいんだが」
「僕が大人になると、生霊さんはかわいそうじゃなくなるの?」
「うーん、理屈ではそうなんだが」

自分が大人になることで、かわいそうな人をかわいそうな人でなくすることができるのなら、今すぐにだって大人になりたいと、13号は思ったのです。
「ぼ……僕、勉強する! 9号に負けないくらいいっぱい勉強して、お利口になって、大人になって、生霊さんをかわいそうじゃなくしてあげる……!」

決死の決意をみなぎらせて訴える13号を、生霊さんは、またまたセクシーな瞳に微笑を浮かべて、じっと見詰めました。
「ほんとに可愛いねぇ」

13号は、思わず、ぽっ☆ と、生霊さんにときめいてしまったのです。


「可愛子ちゃん、ここに登れる?」
生霊さんは、そう言って、広間の隅にあった花瓶の飾られている台を指差しました。

「うん、登れるよ!」
と答え終わるより先に、13号はぴょんぴょんぴょんと軽快に、その台のてっぺんに登っていました。
「登ったよ。どうするの?」

その花瓶置きの台の高さは、ちょうど生霊さんの腰のあたり。
生霊さんは身体をかがめて、13号と同じ高さに視線を持ってきました。
「俺には実体がないからね。自分では可愛い君を抱き上げることもできないんだ。君はあんまり小さすぎて、床に立っていられたんじゃ、キスもできない」

「え…?」
と驚く13号に、なんと、生霊さんはちゅうをしようとしたのです。

13号は、たまに、仲間たちとケーキのクリームのついたほっぺを舐め合ったりすることはありましたが、氷の国の氷河以外の誰かにちゅうをされたことなんてありませんでした。

なのに――13号は、今日初めて会ったばかりの生霊さんに、ちゅうをされても嫌じゃないような気がしてしまったのです。

13号は、氷の国の氷河にそうしてもらう時のように、ふわっ☆ と瞼を伏せました。

「可愛子ちゃん……」
生霊さんの甘い声が、13号のすぐ側に近づいてきます。

が、残念ながら、生霊さんは13号にちゅうをすることはできなかったのです。