ちょうど、小人たちの姿がどこかに消えてしまった時でした。 お店のご主人が、厨房の中に入ってきたのは。 「最後のお客様は、まだ受け取りに来ていないのか。せっかくの大晦日なのに、遅くまで残ってもらってすまないな」 「いえ、おせち料理の準備中は、俺はろくに先輩たちの手伝いもできませんでしたから、これくらいは当然ですよ」 今時の若い者にしては、殊勝な心掛けです。 お店のご主人は、この新米料理人のおにーさんに、ちょっと目をかけてあげていました。 下積み期間の長い料理人にとって、素直さというのは大変な美質ですからね。 この新米は見込みありと、お店のご主人は、おにーさんにとても期待していたのです。 厨房のテーブルの上に、あるべきものがないことに気づくまでは。 「おい、餅の包みをどこにやった? おせちの重箱に隙間ができてるじゃないか」 「あ、今、気の毒な小人さんたちが来て──」 お店のご主人に尋ねられたおにーさんは、かくかくしかじかと、お餅と栗きんとんがなくなった訳をご主人に説明しました。 途端に、それまで上機嫌だったお店のご主人が、茹でダコのように真っ赤な顔になって、おにーさんを怒鳴りつけます。 「お……おまえって奴は、なんでそんな勝手なことをしたんだっ !! あれは、お客様にお渡しするおせち料理だぞ! 早くから予約をいただいてたのに、お客様が受け取りにいらした時、餅と栗きんとんはなくなりましたなんて言ったら、店の信用はガタ落ちだろーが!」 「でも、可愛い小人さんたちが泣いて……」 「何を馬鹿なことを言ってるんだ! 小人なんてものが、この世にいるはずがないだろう! おまえ、自分がつまみ食いをしたくせに、そんな見え透いた言い逃れをするとは、なんて奴だ……!」 「つまみ食いなんて、俺はそんなことしませんよ!」 「貴様はクビだーっっ !! 」 「そ……そんな……!」 料亭のご主人は、残念なことに、あまりメルヘンには縁のない人間だったようです。 ご主人は、おにーさんの言葉に耳を傾けようともせず、問答無用で、おにーさんにクビ切り宣言。 この不況時、しかも年の暮れに職を失うなんて、これはもう楽しいお正月どころではありません。 今度は、おにーさんが『あーん、あーん、あーん』状態です。 お店のご主人はぷんすか怒って、厨房を出ていってしまいました。 |