厨房の隅で、新米料理人のおにーさんが、『あーん、あーん、あーん』と泣いていた時でした。
さきほどの小人たちが、ふいにまた、おにーさんの目の前に姿を現したのです。

「親切な人には、ちゃんとお礼を言ってこいって、氷河に言われて来たんだけど……」
「おにーさん、どーしたの? 何を泣いてるの?」

「実は、小人さんたちにあげたお餅や栗きんとんは、お客様にお渡しするものだったんだ。店のご主人は、俺がつまみ食いしたんだと決めつけて、俺をクビにしてしまったんだ……」

おにーさんの『あーん、あーん、あーん』の訳を聞いた小人たちは、あまりのことに、全員が憤慨しまくりです。
「なんてひどいご主人なのっ !! おにーさんは、僕たちに親切にしてくれただけなのにっ!」
「ビンボーで可愛い小人たちが、お正月に食べるものがなくて困ってたら、助けてあげるのが人の道ってもんじゃない!」
「ほんと、信じられないよ! しかも、つまみ食いしたなんて濡れ衣着せるなんて!」

小人たちは、そんなひどいことをするお店のご主人が許せませんでした。
ですから、親切な新米料理人のおにーさんが、そんなご主人のいる料亭をクビになったのは、かえっていいことだと思ったのです。

それはともかく、自分たちに親切にしてくれたおにーさんがしょんぼりしているのは、小人たちにも辛いことでしたから、小人たちは、親切なおにーさんを励ましてあげることにしたのです。
「おにーさん、泣かないで。そうだ、これから僕たちのお城に来て、一緒にお正月のご馳走を食べようよ!」
「僕たち、おにーさんのおかげで、無事にお正月を迎えられそうなの」
「うんうん、一緒にお正月をお祝いしようよ!」

「え? 小人さんたちのお城で?」
なにしろ、新米料理人のおにーさんは、平穏無事に仕事収めが済んでいたとしても、ひとりで侘しいお正月を過ごす予定でしたからね。
おにーさんは、小人たちのお誘いを有難く受けることにしたのでした。