新米料理人のおにーさんが、氷の国の氷瞬城から帰ってくると、お店には、ちょうど、例の最後のお客様がおせち料理の受け取りにきていました。 「お餅なしの栗きんとんなしで、どうやって、私にお正月を過ごせというのっ!」 お店の奥にある厨房まで、お客様の怒鳴り声が聞こえてきます。 「た……大変申し訳ありません! つまみ食いした料理人はクビにしましたので、どうか、ご勘弁を……。もちろん、お代は結構でございます!」 「これはお金の問題ではないのよっ! この私が、お餅と栗きんとんのないお正月を過ごさなければならないということが問題なのっ!」 「は……それは重々承知いたしておりますが、今年もあと2、3時間。市場も閉まっておりまして、代わりのものをご用意する時間もなく──」 お店のご主人は、ひたすら平身低頭、最後のお客様に謝り続けているようです。 厨房の奥で、その様子を漏れ聞くことになったおにーさんは、お店のご主人に申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。 「もともと、少しばかり頭がおかしかったようで、小人たちにやったとか何とか、ありえないことを言っておりまして──」 「なんですって? 小人たち……?」 それまで、頭ごなしにご主人を怒鳴りつけるばかりだったお客様の口調が、ふいに微妙な変化を見せます。 今年最後のお客様は、お店のご主人に命じました。 「そのつまみ食い料理人を、ここに連れていらっしゃい」 「は? はい、いえ、でも、なにしろ、そんなことを言う者ですので、あれを責めましてもどうにもなりませんし、これは店主である私の責任ですので──」 「ええい、じれったいわね! いいわ、連れて来なくても、私が行くわ!」 しどろもどろのご主人を押しのけて、今年最後のお客様が、どかどかと厨房に乗り込んできます。 新米料理人のおにーさんは、そうして、今年最後のお客様の、マリー・アントワネットのコスプレもかくやと言わんばかりのいでたちに度肝を抜かれることになってしまったのでした。 今年最後のお客様の風体は、日本の侘び寂びに満ちた和風料亭の厨房に似合わないこと この上なし! な超ド派手なものだったのです。 氷の国の小人たちから貰ったおみやげを手にして、あっけにとられているおにーさんの手元を見て、今年最後のお客様は、突如甲高い喚声をあげました。 「まあぁぁぁぁ〜っっ !!!! 」 目の色を変えて、新米料理人のおにーさんの側にやってきた今年最後のお客様は、そうして、おにーさんが両手に抱えていた小人たちからのおみやげを、乱暴に奪い取ってしまったのです。 「こっ……これは間違いないわ! お椀とお皿の底に燦然と輝く、1番から15番のナンバー! 重箱の蓋の裏には可愛らしい小人さん印! これは、間違いなく、氷の国の便所コーロギこと氷の国の氷河お手製の小人さん用の食器! しかも、どう見ても、一度は使用されたもの!」 今年最後のお客様は、おにーさんから奪い取った食器を吟味し終えると、爛々と目を輝かせて、おにーさんに命じたのです。 「あなたっ! これを私に譲りなさい! これは、あなたのような下賎の者が手にしていていいものではないわっ! これは、とてつもない価値のある超レアアイテムよ!」 「え? いや、これは、俺が小人さんたちからもらった大切な──」 「お椀15個、お皿15枚、お重箱、合わせて100万でどう?」 「えええええっ !? 」 今年最後のお客様は、新米料理人のおにーさんの言葉など、聞く耳も持っていないようでした。 もっとも、今年最後のお客様に提示された高額な買い取り価格にびっくりしたおにーさんは、ろくな返事ができる状態ではありませんでしたけれどね。 「不足なの? じゃあ、倍の200万出すわ」 「にににににひゃひゃひゃひゃひゃひゃくまんえん〜っっ !? 」 「小人さんたちのレアアイテムが200万ぽっちじゃ、小人さんたちに失礼かしら。いいわ、更に倍の400万、いいえ、この際、500万でどう? それで栗きんとんの件もちゃらにしましょう」 「ごごごごごひゃくまんえん〜っっっ !!!!???? 」 おにーさんは、あまりのことに、カニみたいに泡を吹き始めました。 「お客様、これはそういう問題ではございませんでしょう。これはお客様への信頼にお応えできなかった当店の責任問題で、そんな玩具でどうこうできる次元の問題では──」 それは、お店のご主人にとっても、非常に有難い申し出だったのですが、ご主人は今年最後のお客様の申し出を受ける気はないようでした。 ご主人は、本当は悪い人ではないのです。 料理人の誇りと責任感を持ち合わせた、とても立派なご主人だったのです。 けれど、残念ながら、料亭のご主人の男気あふれる言葉は、今年最後のお客様にはまるで通じなかったようでした。 「店主! あなた、私の小人さんグッズゲットのチャンスを邪魔する気なのっ !? 」 髪の毛を逆立てて、ご主人に食ってかかる今年最後のお客様。 その正体は、実は、『氷の国の小人さんシリーズ 外伝 ひと夏の経験』において、氷の国の氷河から小人たちを奪い取ろうとして失敗した、真の小人さんフリーク atenasaori_ojyo 、その人だったのですー!! |