お店のご主人が、アテナ沙織お嬢の迫力にたじたじとなった時でした。

「おにーさーん。おみやげの食器のお箸、忘れてるよー!」× 15
手に手にお箸を持った氷の国の小人たちが、風雲急を告げる料亭の厨房に、忽然と姿を現したのは。

「こっ……小人さんたちーっっっ !! 」
愛しの小人たちとの思わぬ邂逅に有頂天になってしまったアテナ沙織お嬢の歓声は、感動のあまり、まともな声になりません。

ですから、小人たちの視線は、まず、おにーさんの隣りに立っていたお店のご主人に向けられることになりました。
多分、アテナ沙織お嬢の派手ないでたちは、小人たちの目には、お正月のお飾りか何かに見えていたんでしょうね。

「あっ、このおじさんが、親切なおにーさんをクビにした悪いご主人だよ!」
「悪い人は懲らしめなきゃ!」
「そーだ、そーだ!」
「ビンボーで可愛くて困ってるいたいけな小人たちに同情しないなんて、なんて悪い人なんだ!」

小人たちの心は、いついかなる時でもひとつです。
誰が合図したわけでもないのに一斉に、小人たちは、お箸を持った手で、ぽかぽかぽかぽかとお店のご主人を殴りつけ始めました。

「うひゃひゃひゃひゃ〜っ、くすぐったいーっっ!」
お店のご主人は、ちっとも痛くない小人たちのお箸攻撃に身をさらすことになって、悶絶寸前です。

「僕たちにやさしくしてくれたおにーさんをクビにするなんて、ひどいーっっ!」
「いたいけな小人に同情しないなんて、鬼みたいなおじさんだーっ!」
「そっ……そんなことを言ったって、あれは、こちらのお嬢様からの注文で作っていた栗きんとんだったのにー!」

ご主人にしてみれば、自分が小人たちに責められることに納得がいきません。
それはそうでしょう。
感情論としてはともかく、法的には、お店のご主人の方が完全に正しいのですから。

ぽかぽかぽかぽかぽか × ∞
「うひゃひゃひゃひゃ〜、助けてくれーっっ !! 」
一致団結して、お店のご主人を攻撃し続ける氷の国の小人たち。
あまりのくすぐったさに、気も狂いそうなお店のご主人。

そこに現れたのは、氷の国の氷河でした。
「おまえたち、やめないかっ!」

氷の国の氷河は、小人たちに攻撃を止めるように言いました。
氷の国の氷河は、ご主人の悲鳴で、事の次第を(遅ればせながら)知ることができたのです。