「ご主人、こちらのおにーさんが、我々にくれた餅や栗きんとんはもしかして……?」
「こちらのお客様にお渡しするはずだった、ウチの商品です〜。うひゃひゃひゃひゃ〜っ !! 」
「……やっぱり……」

自分たちが喜んで食べてしまったお餅や栗きんとんが本当は誰のものだったのか。
真実を知った氷の国の氷河は、真っ青になってしまいました。
「おまえたち。こちらのご主人は悪い人なんかじゃない。ご主人はご主人が当然すべきことをしただけなんだ。だから、もう止めなさい」

小人たちのお箸攻撃を押しとどめようとした氷の国の氷河に、けれど小人たちは問い返します。
「じゃあ、氷河は、いたいけな小人たちがお正月に食べるものがなくて泣いてるのを放っておくのが、正しいことだって言うの !? 僕たちに栗きんとんをくれたおにーさんが悪いって言うのっ !? 」
「いや、そーゆーわけではなくて、だから、つまり、その〜……」

「僕たちは、氷河におせち料理とお餅を食べさせてあげたかっただけなのに、なのに氷河がそんなこと言うなんて、ひどいーっ !! 」
「あーん、あーん、あーん !! 」× 15

「あ……あぁぁぁ〜;」
盛大に泣き出してしまった小人たちの前で、氷の国の氷河は大弱り。
氷の国の氷河は、小人たちをどう諭せばいいのかがわかりませんでした。
なにしろ、小人たちがおにーさんにお餅や栗きんとんをおねだりしたのは、元はと言えば、氷の国の氷河に甲斐性がないのが原因でしたからね。

そうなのです。
小人たちは、氷の国の氷河のために、食べ物を調達しただけ。
新米料理人のおにーさんは、気の毒な氷の国の小人たちのために、優しさを示しただけ。
料亭のご主人は、お店のお客様のために、責任を果たそうとしただけ。

誰も悪くはないのです。
今、この厨房に、悪い人はひとりもいません。
優しさと思い遣りのすれ違いが、こんな事態を招いてしまっただけだったのです。

「だって、僕たちは、氷河にお餅を食べさせてあげたかったのー」
「俺は、小人さんたちが気の毒で……」
「お客様にご迷惑はかけられないー」
「俺に甲斐性がないばっかりに、すまない、おまえたち〜」
「あーん、あーん、あーん」× 18

遠くから、除夜の鐘の音が、微かに聞こえてきます。
西暦2003年は終わり、新しい年が始まった冬の夜。

誰も悪くないのに。
悪い人はひとりもいないのに。
某高級料亭の厨房では、みんなが声をあげて泣いていました。