「これは許し難いことだよ!」

とてつもない威力を持ったトウガラシ攻撃からなんとか立ち直って、最初に気勢をあげたのは、9号でした。
「氷の国に、こんな辛いものがあるなんて! ううん、この世界に、こんな辛いものがあるなんてっ!」

トウガラシの衝撃のせいで、まだ少しぐったりしていた氷の国の小人たちは、怒り心頭に発している9号をぼんやりした目で見やり、それからがっくりと肩を落としました。

「でも、あるものはあるんだし」
「仕方ないよね」
「今度から、この木には近づかないようにしよう」
「うん。僕、もう見るのもいや」
「この木、いつからここにあったんだろう?」
「どっかから種が飛んできたのかな?」
「渡り鳥さんが運んできたのかもしれないね」
「去年までは、氷の森にはなかった木だよね」

わりと素直に現実を受け入れてしまった仲間たちに、9号は肩を怒らせて檄を飛ばしました。
「みんな、そんなことでどーするの! この許し難い現実を正そうとは思わないのっ!」

「正す……って言ったって……」
「ねぇ……?」

9号がどんなに腹を立てたって、辛いものは辛いのです。
いきりたっている9号に、彼の仲間たちは、情けない顔を向けることしかできませんでした。


ところで。
“前向き”には、2種類の前向きがあります。
与えられた現実をあるがままに受け入れて、その中でよりよく生きようとする前向きと、不都合のある現実を自らの手で改革していこうとする前向きです。

トウガラシ・ショックに怒りを感じている9号は後者で、トウガラシ・ショックからの回避を考える9号以外の小人たちは前者でした。

どちらの“前向き”がいいのかということは一概には言えませんし、その判断は、その場その時で違ってくるものでしょうが、具体的な改革案があるのであれば、それはもちろん、世界を良い方に変えた方がいいに決まっています。

「9号、何かいい方法があるの?」
2号が尋ねると、9号は、小さな胸をどんと叩いて頷きました。
「もちろんさ! 僕たちが力を合わせたら、この世に不可能なことなんてないよ。重いものを運ぶことと、辛いものを食べることと、それから、えーと、僕たちの氷河と離れていること以外は!」

9号は、なかなかしっかりと現実を見据えていますね。
でも、そんなふうにしっかりと地に足をつけている9号の言うことだからこそ、彼の仲間たちは9号の提案や意見に信をおいているのです。

「どうするの?」
「考えるまでもないよ。辛いものは甘くすればいいんだ」
「でも、どうやって?」

「それはねぇ……」
どうやらやる気が出てきたらしい仲間たちに、9号は、とっても真剣な目をして、自分の考えた秘策を伝授したのでした。