わんわん泣き続けていた小人たちの涙と泣き声は、氷の国の氷河に何度も頭を撫で撫でされているうちに、少しずつ収まってきました。

「さあ、せっかくのクリスマスだ。泣くのはもうやめて、ケーキを食べなさい」

「ぐす……そうだ、ケーキ食べなくっちゃ」
「ひっく……そうだよね。せっかくのクリスマスだもんね」

氷の国の氷河が、ケーキの置いてあるテーブルの上に、元気を取り戻してきた小人たちを降ろします。
ケーキを目の前にした小人たちの瞳は、きらきらと輝きだしました。

「さあ、みんな。もう泣くのはやめて、ケーキを食べよう!」
「おおーっっ !! 」× 15

9号の号令一下、次の瞬間、小人たちは、氷の国の氷河の地獄堕ちのことなど綺麗さっぱり忘れたように、クリスマスケーキに突進していきました。

氷の国の氷河の年末出稼ぎの成果である、イチゴの乗ったクリスマスケーキ。
小人たちは、自分の身体の何倍もあるケーキに、怖れる様子も見せずに挑んでいったのです。

「ぱくぱくぱく。わーい、おいしー!」
「ぺろぺろぺろ。クリーム、ふわふわ〜v」
「むしゃむしゃむしゃ。イチゴ、甘〜い」
「あむあむあむ。幸せ〜」
「もぐもぐもぐ。ほんと、幸せだね〜」

たとえ、何があっても、小人たちと氷の国の氷河の心はしっかりと結ばれています。

「もごもごもご。僕たち、ケーキがあれば、他には何もいらないね〜」
「もしゃもしゃもしゃ。身も心も満ち足りるよね〜!」

「…………」
――多分、結ばれているはずでした。

もし神様が、毎日、小人たちにケーキを食べさせ続けたりなんかしたら、小人たちは、雪の女王の魔法にかけられたカイのように、自分のことを忘れてしまうかもしれないという不安が、ふっと、氷の国の氷河の胸を横切ります。

けれども、氷の国の氷河は、ケーキと格闘している小人たちを見詰めながら、すぐに思い直しました。
(……いいさ、それでも。おまえたちが元気で笑っていてくれるなら)

人は、誰かに心から愛された一瞬があったなら、その一瞬の思い出だけでだって一生を心豊かに生きていくことができるものです。
まして、氷の国の氷河は、その一瞬をこれまでに何度も何度も経験してきていました。

小人たちが元気で笑っていてくれるのなら、氷の国の氷河はそれだけで、自分自身も幸福でいられたのです。


クリームだらけになって、必死にケーキを食べ続ける小人たち。
そんな小人たちの姿を見詰めている氷の国の氷河は、今、とても幸せでした。


幸せな幸せな氷の国の氷河は、そして、たまりにたまった疲労のため、今度こそ、ばたりと床に倒れてしまったのでした。