「この長屋はおんぼろだから、雨漏りがすごいのよ」
「特におめぇさんたちが入った家はひどくてな、梅雨の頃や秋の長雨の時期には、とてもじゃねぇが普通に暮らしていられねぇ」

ひとまず落ち着きを取り戻した氷河一家の前で、おシゲちゃんとクマさんは困ったようにぼやきました。
長屋の雨漏りには、もちろん、おシゲちゃんやクマさんたちも困り果てていたのです。


「ああ、それで、家賃が異様に安かったんだね」
9号が慌てず騒がず冷静に言ってのけるのに感心しながら、クマさんはかりかりと頭をかきました。

「俺が足を怪我する前は、仕事場から、余った板をちょろまかしてきて、少しずつ屋根を修理してたんだが、今はそれもできなくなってなぁ」
「そっか……」

ぴちょん、ぴちょん、ぴちょん。
屋根を伝って落ちてくる雨の雫が、端の欠けたお茶碗にぶつかって、小さな音を立てています。

「でも、どっちにしても、そんなんじゃ、この雨漏りの根本的解決にはならないね。これは、どう考えたって、屋根を全部張り替えるしかないような雨漏りだよ」

ぴちょん、ぴちょん、ぴちょん。
雨の雫が、9号の言葉に同意して頷きます。


「ウチも結構ひどいのよ。湿気はおとっつぁんの病気に良くないんだけどね」
「俺の足も雨が降ると痛み出すなぁ」
「ご隠居さんの神経痛もひどくなるみたいね」
「ああ、神経痛には辛いだろうなぁ」

かと言って、雨に、降ってくるなと命令するわけにはいきません。
こればかりはどうしようもないことと、クマさんとおシゲちゃんは困ったように顔を見合わせました。

「でも、雨漏りも楽しいじゃない。ぴちょんぴちょんって、何かの歌みたい」
「雨漏りで得した10号は黙ってて!」

びしっ★ と、9号に言われてしまった10号は、それでもどこか嬉しそうな顔をして、また氷河の懐に潜り込んでしまいました。


「……もしかして、9号ちゃん、機嫌が悪いの?」
おシゲちゃんが、雨の歌を歌っててる茶碗を覗き込んでいた小人さんの1人に尋ねると、その小人さんは――おシゲちゃんには、それが何号なのかわかりませんでした――大きくこっくり頷きました。


「そりゃあね〜」

「あのね、僕たち、毎日、眠る場所を交替してるの」
「寝る場所の順番が決められてるの」
「でないと、誰がいちばん氷河の近くで眠るかで喧嘩になっちゃうから」
「今日いちばん氷河の近くで眠ったら、次の日はいちばん端っこに行って、順々に一人ずつずれていくの」
「夕べは、9号が氷河の隣りだったの」
「なのに、いちばん端っこに眠ってた10号が得しちゃったんだもんね」
「10号ったら、いつまで、氷河の懐にいるつもりかしら」
「僕だって、ちょっとムカついてるよ」
「僕だって〜!」


「…………」
「…………」

こんなにぬぼ〜っとしている氷河ですが、どうやら彼は随分と小人たちに愛されているようです。
そこいらへんの事情が理解できなくて、おシゲちゃんとクマさんは、またまた顔を見合わせてしまいました。







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