「今日の雨は春の雨であったかいから、まだいいけど、これが梅雨になったり、台風が来たりしたら、こんなんじゃ済まないよ。これは一大事だよ! 僕たちが風邪ひいたりしたら、薬代もお医者にかかるお金も15人分なんだから!」

おシゲちゃんとクマさんの疑念をよそに、9号が、やっぱり不機嫌そうに問題提起します。

「その時は合体しちゃえばいいじゃない」
「そーゆー訳にはいかないよ!」
小人の1人が解決策を提案しましたが、それはあっさりと却下されてしまいました。

「僕たち、小人でいるから、ご飯5粒で満腹になれるんだよ。小人だから、お仕立て物の半端布で着物も作れるんだ。普通サイズの着物を作ろうと思ったら、お金がかかる。ご飯だって、お茶碗一膳分は必要になる」

「うん、そうだね……」
「氷河が貧乏でいるうちは、僕たち、やっぱり小人でいなくちゃね」
「氷河がお金持ちになるまでの我慢だよ」
「うんうん、我慢我慢」

「おまえたちには、苦労をかけるなぁ。俺が貧乏なばっかりに……」
「それは言わない約束だよぉ〜!」× 15

お決まりのセリフを綺麗にハモって、小人たちが氷河を見上げます。

「いつか、ちゃんとした所帯を持てるようになるまでの辛抱だもん」
「氷河のためにだったら、僕たち、いつまでだって待てるもん」
「貧乏なのは、氷河のせいじゃないもん」
「氷河は一生懸命働いてるもん」

「おまえたち……ありがとう……」

この感動的かつパターンの極みのやりとりを見たクマさんとおシゲちゃんは、訳がわからないながらも、思わず貰い泣きです。


「僕たちは、貧乏だから小人でいなきゃならない。でも、小人だってことに甘えてもいられないと思うんだ」
けれど、9号は泣き言など言うつもりもないようでした。

「どーするの?」
「僕たちも働こう!」

「ええええええっ !? 」× 14

「働いて、お金を貯めて、この長屋の雨漏りを直すんだ! 僕たちの公平を守るため、おシゲちゃんのおとっつぁんのため、クマさんのため、ご隠居さんのために、元気で健康な僕たちが働かなくちゃ!」

9号の言葉には、いつも説得力があります。
他の14人は、こくこくこく〜と綺麗なウェーブを描いて、9号に頷き返しました。

「僕は決めたぞ! いつかきっと、この雨漏り長屋を、雨漏りしない、ただの長屋にすることを! その日が来るまで決して挫けないことを!」

「9号!」
「僕だって!」
「僕も頑張るー!」
「僕たちのため!」
「僕たちの氷河のため!」
「おシゲちゃんの病気のおとっつぁんのため!」
「怪我してるクマさんのため!」
「神経痛のご隠居さんのため!」

「僕たちは負けない!」
「僕たちは頑張る!」
「僕たちは一生懸命働くぞーっっ!」

「おーっっっ !!!!!! 」× 15

氷河の懐に潜り込んでいたはずの10号までが、いつの間に抜け出したのか、自分たちがお布団に使っていた手拭いを頭からかぶって、仲間たちと一緒に『えいえいおー!』をしています。


決意に燃えた小人さんたちの熱い思いは、雨の雫も水蒸気にしてしまっているようでした。



(おいおい、働くったってなぁ……)
(こんなに小さい小人さんたちが、何をして働けるっていうの?)

おシゲちゃんとクマさんは、いたって素朴な疑問に首をかしげていましたが、岡っ引き氷河は、そんなことに思い至ってもいないのか、ひたすら小人たちの健気な決意に感動しまくっている様子です。


(どーする気なんだろうなぁ?)
(どーする気なのかしら?)



いつの間にか、雨はあがったらしく、朝の雲間から陽の光が射し込んで、決意に燃える小人たちを明るく照らしています。

小人たちがいったいどうやって働くつもりする気なのかはわかりませんでしたが、小人たちならどーにかしてしまうのかもしれない――。

一抹の不安を覚えつつも、小人たちの決意が嬉しくて、なんとなく明るい気分になってしまったクマさんとおシゲちゃんではありました。







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