「おおおおおおおっ!」
「こここここれは、いったい何だ !? 」
「う…動いているぞっ !! 生きた人形だ!」
「これは、幻術かっ !? 」

いい着物を着たおじさんたちが、どよどよどよと小人たちの周りに集まってきます。
が、もちろん、自分たちが注目の的になっていることに物怖じするような小人たちではありません。

「さあ、みんな、このおじちゃんたちに僕たちを売り込んでっ!」

9号の号令一下、早速、自己アピール開始です。

「あのね、おじさんたち。僕たち、勇気があるの。火消しさんの仕事とかもできるよ」
「僕たちはお絵描きも得意だから、絵師だってできると思うの」
「僕たち、お歌も好きなの。謡いの先生もできるよね」
「踊りもなかなかだよ。ちんとんしゃん♪」
「寺子屋のお師匠さんもできるよね。ちゃんと、いろはも言えるもの」


世は、町人文化花盛りの太平の時。
豪商たちが、ちんけな大名以上に経済力を持っている時代です。
江戸の町には人と物があふれていました。
経済・文化の爛熟期、たくさんの商品があふれている町で、他の店との差別化を図ろうとした時、ものを言うのはコマーシャリズムです。
スターを使った宣伝です。

大店の主人や番頭たちは、世にも珍しく愛らしい小人たちの利用価値にすぐに気付きました。


「ねえねえ、ボクたち。ウチに来てくれないかい? 他袈縞屋だよ。江戸一番の呉服屋だ」
「なんの、末屋だ 関東随一のカンザシ屋」
「ウチは蜜古紙だ! 日本一のよろず屋だぞ」
「顔が命の夜し得です。小人は顔が命!」
「ここはやっぱり邪似異図だろう。今、大入り満員の大興行を打っている見世物小屋へ来て、ボクちゃんたちもスターになろう!」

「うーん、そうだねぇ……」

大店の主人・番頭たちを向こうに回し、やり手の9号は、それぞれの雇用条件と仕事内容を聞き出して、てきぱきと交渉を開始しました。







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