さて。

そんな光景を、口入れ屋の隅っこの方から、驚き入った顔で眺めている一人のおじいさんがいました。
おじいさんは、もしかしたら、おじさんと言った方がいいくらいの歳だったかもしれません。
貧しげな着物と気の弱そうな眼差し、苦労が刻んだらしい深い皺が、そのおじさんを実際の年齢よりも老けて見せているようでした。


「おじさん。おじさんは何屋さんなの?」

難しい話は9号の担当です。
自己アピールを済ませて、することのなくなった小人の1人が尋ねると、おじさんは気弱そうな微笑を目元に浮かべました。
おじさんは、世にも不思議な動く小人に話しかけられたことに、どぎまぎしているようでした。

「あ、ウチは、そんな他袈縞屋さんや末屋さんみてぇな大店じゃなく、かみさんと二人できりもりしてた、ちっぽけな団子屋で、そのかみさんが亡くなったもんで、誰か代わりを雇い入れようと思って、ここに……」

「お団子屋さん―っっ !? 」× 14

仲間たちの声に、9号が振り返ります。

おじさんは、恥ずかしそうに小人たちに頷きながら言いました。
「とても、こんな値の張りそうな小人さんたちを雇うことなんざ、できねぇでさぁ。ウチで売ってるものといったら、立派な着物でも高価なカンザシでもなく、みたらし団子だの、あん団子だの、ごま団子だの、草餅、桜餅、ぼた餅とか、そんなのと、出がらしのお茶くれぇのもんで――」

「みたらし団子」
「あん団子」
「ごま団子」
「草餅」
「桜餅」
「ぼた餅」

「あとはせいぜい、あんころ餅とか汁粉とか」

「あああああああああっっ !! 」× 15(←増えている)

魅惑的な名前の羅列に、甘いもの好きな小人たちは気絶寸前でした。

「すんません。いや、ウチは給金も大して出せやせんし、とても他袈縞屋さんや末屋さんには敵いませんのでさぁ」


「団子屋だと! そんなところで小人たちを働かせるなんざ、人材の無駄使いもいいところだ! てめぇは、そこいらの洟垂れ小僧でも雇ってろ」
「そーだ、そーだ。身の程知らずのくたばり損ないが! とっとと失せやがれ」

「そんなことより、小人さんたち〜v ウチに来てくれたら、月5両払うよ! 店先でお客に愛想を振りまいてくれるだけでいいからね〜」
「なんの、ウチは10両だ! お昼寝ももちろんOKだよ。ただし、客の目にとまる店先でね」
「いっそ、1人1両でどうだい? 新米丁稚の10倍の給金だよ」



「…………」× 15

15人の心は、いつも1つでした。
誰をいちばん大好きか、何を大切に思っているか、どんなものが好きなのか――その価値観も一緒でした。
お利口さんの9号とて例外ではありません。

どうやらここで働き手を確保するのは無理と悟ったらしい団子屋のおじさんが、とぼとぼと帰りかけたその背中に、ですから、小人たちはすがるように叫んでいたのです。

「お…おじさん、待って……!」
「おじさん、行かないで!」
「お団子屋のおじさーん!」

「僕たちを雇ってくださーい !! 」× 15


驚いて振り返った団子屋のおじさんは、大店の主人たちの目にびくびくしながら、小人たちに言いました。
「いや、しかし、ウチはせいぜい月500文くらいしか出せねぇし……」

「お給金の問題じゃないんだ! どんなにお給金が良くたって、働き甲斐のないお仕事は、一生懸命頑張ろうって気にならないもの!」
「そうだよ、9号の言う通りだよ!」

「お団子屋さんって、みんなに喜ばれる素晴らしいお仕事だよね!」
「うんうん。世界でいちばん素敵なお仕事だよ!」
「憧れのお仕事だよね〜」

小人たちの心は決まっていました。
小人たちの心は、小豆の煮える甘い匂いに、すっかり魅了されてしまっていたのです。







[次頁]