「これが、ウチで作ってる団子なんですが……」

おじさんの団子屋は、桜と梅で有名な、とあるお寺の近所にありました。
ちんまりと古ぼけた店の軒に、今は梅の花びらが舞っています。

「わーい、お団子だーっっ !!!! 」
小人たちは、目の前に出された、あん団子とみたらし団子に、瞳を輝かせて突進しました。
ぱくぱくぱくぱく、むしゃむしゃむしゃむしゃ、はむはむはむはむと、それはもう一心不乱。

「おいしーい!」
「うん、すごくおいしい!」
「これまで食べたことのある、どのお団子よりおいしい!」

「僕たち、貧乏だから、お団子、あんまり食べたことないけどね」
恥ずかしそうに小人の一人が言う脇で、岡っ引き氷河は小さくなってしまいました。


「あんこの甘さ」
「お団子のやわらかさ」
「もちもちした食感」
「しかも、甘いのにしつこくない」
「最高だね〜っっ !! 」


「こんなにおいしいお団子を売ってるのに、どーして、こんなにボロいお店なの?」
「流行ってないの?」
「そんなの変だよ」
「こんなにおいしいのに!」
「場所だっていいよね。お参りや花見のお客さんがたくさん通るとこだし」

不思議そうに首をかしげる小人たちの、ほっぺについたあんこを見ながら、団子屋のおじさんは小さく小さく微笑みました。
「そうかい、そうかい。うまいかい。嬉しいねぇ。ウチは、かみさんと2人で細々とやってた団子屋で、そのかみさんも先だって死んじまったし、看板娘もいないしなぁ」


「こんなおいしいお団子が、看板娘さんがいないくらいで埋もれてしまってちゃいけないよ!」
「うん、絶対、いけない!」
「そんなの、許されないことだよ!」
「仏様だって怒るよ!」

「よし、僕たちは、おじさんのこのお団子のおいしさを江戸中の人に知らしめるぞ」
「うん、教えてあげたいね」
「それって、最高のお仕事だよね!」


――と、小人たちが、目一杯やる気をみなぎらせた、その時でした。

「――だが、おまえたち、団子も湯呑み茶碗も運べないだろう」

「え?」

よりにもよって、いつもぬぼ〜っとしている岡っ引き氷河が、実に鋭いところを突いてきたのです。
団子屋のおじさんも、小人たちにお運びさんは到底無理だということに、今頃になって気付いたようでした。


「そーいえば……」

お団子は結構、どっしり重いものです。
お団子をのせるお皿だって、なにしろ江戸時代のことですから、当然軽量プラスチックなんかではありません。

「お…お団子は、4人くらいで力を合わせれば、どーにかなるよ!」
「4人ずつで、お団子を2串運んで、あとの7人がお皿を押していけば……」
「それをどうやって厨房のテーブルからおろして、客の座っているテーブルの上にのせるんだ?」

「う……」

時代考証を無視しまくりの単語を使って、岡っ引き氷河は、またまた痛いところを突いてきます。

「お茶の入った湯呑みなんて、重い上に熱くて、しかもひっくり返したりしたら大火傷だ。おまえたちがそんな危険なものを運ぶのは、俺は許さんぞ」

「そ…それは……」

何ということでしょう。
せっかく、やり甲斐のある素敵なお仕事が見つかったというのに、小人たちの職探しは一から出直しになってしまうのでしょうか。

団子屋のおじさんも、こればかりは思案投げ首です。


「ど……どうしよう、9号……」

さすがの9号もちょっと考え込んでしまったようでしたが、9号は、すぐに名案を思いつくから9号なのです。

「いい方法がある。おじさん、今、売りに出せるお団子はあるの?」
「あ……ああ、午後から店を開けようと思ってたから準備はしてあるが……。昨日の売れ残りもたくさんあるし」

「売れ残りなんか売っちゃ駄目だよ!」

団子屋のおじさんにびしっ★ と命じると、9号は早速、仲間たちと下僕に指示を飛ばし始めました。

「じゃあ、商売を始めるよ! 氷河! お茶の入ったヤカンとお茶碗をたくさん、そこの端っこの棚に置いて。おじさん、厨房の出入り口の脇にテーブルを一つ運んでちょうだい」
「ヤカンをどーするんだ?」

「注文して作ったお団子は、こっちのテーブルに持って来てね」
「は…はぁ」

「1号、2号、3号! オープンテラスで客引きして。お団子食べて、大声で喜んでみせるんだよ」
「地でいけるよ。おっけー、いいお仕事だね!」

「9号、僕たちは?」
「お茶サービス組とお団子運び組に分かれて、それぞれのテーブルに行って」
「お客さんの注文を受けて運ぶの?」
「お茶は運ばない。お団子を運ぶのは、お団子テーブルの上だけ。僕たちは、お団子セルフサービスとお茶バイキングのシステムで行ってみよう!」

「競る房びす?」
「ばい菌がどうしたって?」

聞いたこともない単語に(当然である)戸惑う岡っ引き氷河と団子屋のおじさんに、9号は自信に満ちたカッコいい笑顔を放ってみせました。
「細工は流々、仕上げをごろうじろ! みんな、行くよっ!」

「おーっっっ !!!! 」× 15

簡単な小人さんミーティングの後、そうして、小人たちの初仕事は始まったのです。







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