「わ〜、おいしい! もぐもぐもぐ」
「たまんないね〜! はぐはぐはぐ」
「ほっぺが落ちちゃうよぉ! もしゃもしゃもしゃ」

店先での、1号2号3号の客寄せは効果抜群でした。

店の前の通りを歩いていた梅見客たちが、世にも珍しい“団子を頬張る小人たち”に驚いて、その足を止めます。
店の前に人だかりができたところで、お代をとらない0円スマイル。

「お団子おいしいよ! 食べてって!」
「花より団子だよ。でも、ここなら、お団子食べながらお花見できる特等席があるよ」
「僕たちが心を込めてサービスさせていただきます! お店の中にどうぞ〜vv」

小人たちの元気のいい呼び込みに、店の前の人だかりが大きなどよめきをあげます。

「これは人形かい?」
「動いてるぞ!」
「団子を食ってる!」
「生きてるんだ!」

「おい、店の中にも小人がいるらしいぞ!」
「小人が団子売りをしてる!」
「へええ、さすがは将軍様のお膝元だねぇ。田舎から見物に来た甲斐があったよ!」

小人の団子売りに興味を引かれた梅見客たちが、好奇心一杯でぞろぞろと店の中に入っていくと、そこでもまた、小人たちの、
「いらっしゃいませ〜! ご注文は何になさいますか〜!」
という明るく元気な声。

「あ、じゃあ、みたらしを2串もらおうか」
「ありがとうございまーす !! おじさーん、みたらし2本、ご注文だよ〜!」


小人たちの受けた初めての注文。
そうして、9号発案の、お団子セルフサービス&お茶バイキング・システムは稼動し始めたのでした。



まずは、団子屋のおじさんがテーブルの端に持ってきたお団子を、小人たちが4人がかりで、
「よいしょ、よいしょ」
と、テーブルの中央にある小皿にまで運びます。

それから、小人たちの運搬作業に目を細めて見入っていたお客さんに、セルフサービス・システムのご説明。

「あのね、僕たち、小さいから、ここまでしか運べないの。お客さんは、このお皿持って、自分の好きなテーブルについて食べてちょうだいね。その代わり、お茶はお代わり自由だよ。何杯飲んでも4銭だよ」

「ほう、そりゃ、お得だね!」

お団子の載った皿を持ったお客さんが、お茶テーブルに行くと、今度はお茶係の出番。
「お茶はお代わり自由だから、自分の好きなだけ自分で注いで飲んでちょうだいね。食べて飲んだ後で、店の横の井戸でお茶碗とお皿を洗って返してくれたら、僕たちがお茶碗拭きの芸をして見せまーす!」
「へへぇ、そりゃ見てみたいなぁ」


「お持ち帰りもできますよ! 今なら、20本買うと1本おまけつき! 包み紙に小人の手形マークがつきます! あんこ色と、桜餅の色と 草餅の色と、みたらし団子の色と、紫芋あんの色だよ! 5色の手形が揃ったら、またまた1本おまけがつくよ! これから、ずっと僕たちの団子屋をごひいきにしてね〜!」

「おっ、随分気前がいいじゃないか」
「おじちゃん、誉めるのは、気前より、お団子の味にしてよね!」
「おっ、言ったな、どれどれ」

おじちゃんはもちろん、小人さん推薦のお団子の味に大満足です。

「んめぇ!」
「でしょ、でしょ!」

1人がセルフサービスの波に乗ると、あとは五月雨式です。
小人たちの上には、次から次へと注文が降ってきました。


「小人さん、私、桜餅が欲しいんだけど」
「はーい!」
「ああ、でも、私、桜餅の葉っぱが苦手なのよねぇ」
「僕たちが、サービスで剥がしてあげまーす!」

そう言って、2人がかりで、『よいしょ、よいしょ』と桜餅の葉っぱを剥がす小人たちに、お姉さんは超感激。
「きゃー、可愛い! なんてラブリーなのっ! 小人さんたち、頑張ってー!」

お店の中は、あちこちで繰り広げられる小人たちのパフォーマンスとリップサービスで、俄然にぎやかになってきました。


「お茶はこちらですよ〜!」
「おいおい。なんか、このお茶、薄くねぇかい?」
「京風なんです。お茶の味が濃いと、お団子の風味がわからなくなるでしょう? うちのお店のお団子は、ほんとはお水と食べてもらいたいくらいのお味なんだから。おにーさん、舌が肥えてそうだから、すぐわかるでしょ?」 
「ん? そりゃあ、もちろんだぜ。うん、確かにうめぇなぁ」
「わーい、さすが通だね!」

と、小人たちに感心されていい気分の若旦那がいるかと思うと、洗ったお皿をきゅいきゅい拭いていて転んでしまった小人たちを見兼ねてしまったおばーさんもいました。

「ああ、見てられないねぇ。どれ、あたしが拭いてやるよ」
「ありがとう、おねーちゃん!」
「やだよぉ、あたしゃ、もう50だよ。おばーちゃんだよ」
「そんなことないよ。優しい人はいつまでも若くて綺麗だもん」
「見ればわかるよね〜!」
「あれ、ほんとに口がうまい子たちだねぇ」

50過ぎのおねえちゃんは、そう答えながら、まんざらではなさそうです。



小さな身体で、自分たちより大きな団子を必死になって運ぶ小人たち。
小さなフキンでお皿を拭いたり、お茶碗にはまったり、でんぐり返ったりする小人たち。


お団子のおいしさと、超ラブリーな小人たちの奮闘の甲斐あって、その日、団子屋のおじさんが準備していたお団子は、あっと言う間に売り切れてしまったのでした。







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