愛と哀しみの団子盗難事件




9号は、商売の天才でした。


団子作りの厨房を、お客さんたちの目に見えるように、仕切りの壁を取り払わせたのも9号でした。

子供たちはもちろん、大人でも、実演販売というのは見ていて楽しいものです。
ころころお団子を丸めて、串に刺し、あんこやたれをとろ〜りくぐらせる様子って、1日中眺めていても飽きませんよね。
それは、お団子を清潔な場所で作っていることの証明にもなって、お団子の安全性をアピールすることにもなるわけです。
ときたま、あんこに滑って転んで三回転する小人たちの姿を見れたりして、なかなか素敵なのです。


でも、それだけだったら、どこぞのデパートの『ふるさと物産展・名物だんご実演販売』と大して変わりがありません。
9号は、そんな誰でも思いつくようなことはしません。
9号の商才は、もっとずっと先を行っているのです。


9号は、たとえば、おじさんの団子を丸める手に疲れが見えてくると、おじさんの側に言って、厳しい叱咤を飛ばします。
「お団子を丸める手に気合いが入ってないっ! びしっ★」

もちろん、小人の9号はおじさんのほっぺまで手が届かないので、『びしっ★』というのは声だけです。
声でぶちます。

お客さんの視線が厨房に向いたところで、お店のポリシーをPR。

「一瞬たりとも気を抜いちゃ駄目! 疲れた時には、むしろ休んだ方がいいんだ。気合いの入っていないお団子に当たっちゃったお客さんは、それがおじさんのお団子の味だと思っちゃうんだよ。ほんとは、とってもとってもおいしいお団子があるのに、もう二度とうちのお店に来てくれないかもしれないんだよ。それって、お店はもちろん、そのお客さんにだって不幸なことでしょ。大切なのは心だよ。お客さんのことを思って、一つ一つ心を込めて作ることが大事なんだ!」

そんな9号ちゃんの叱咤を聞いたら、お客さんだって感動します。
団子1串1串に込められた、おじさんの心をじっくりしっかり味わって、そして、また来ようって気になりますよね。

実際、小人たちのお団子屋さんには、リピーターさんがいっぱいついていました。
世にも珍しく愛らしい小人たちのサービスという話題性もあって 新規のお客さんも次から次。

小人たちのお団子屋さんは、繁盛繁盛大繁盛状態でした。


もちろん、おじさんも、団子作りから手を抜いたりはしません。
苦労してきた時代が長かっただけに、『おいしい』と言ってくれるお客さんの笑顔が嬉しくて、おじさんは仕事から手を抜いたりできなかったのです。







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