ついに開始された1号捜索大作戦。
でも、その前に、ここで詳しい状況説明をしておきましょうね。

今、花のお江戸の雨漏り長屋に住む小人たちが働いているのは、やもめのおじさんがいる、あのお団子屋さんではありません。

小人たちの大活躍で、つぶれる寸前だったお団子屋さんが、江戸の町いちばんの人気を誇るお団子屋さんになったことは、みなさんもご存じですよね?
おじさんのお団子屋さんは、それはもう大繁盛。
おじさんは毎日毎日目が回るような忙しさで、嬉しい悲鳴をあげていました。

その悲鳴を聞きつけたのが、花のお江戸で商売をしている、売れない飴細工屋さんや売れないお饅頭屋さんや売れない甘納豆屋さんたち。
売れない飴細工屋さんや売れないお饅頭屋さんや売れない甘納豆屋さんたちは、傾きかけたお店を、ぜひとも小人たちの力で立て直してほしいと、小人たちに泣きついてきたのです。

頼られたら嫌とは言えないのが小人たち。
月に3回、お団子屋さんがお休みの時だけ──という条件つきで、小人たちは、甘味処出張建て直し事業に乗り出したのでした。

もちろん、小人たちの力を得るために、売れない飴細工屋さんや売れないお饅頭屋さんや売れない甘納豆屋さんたちは、9号の実施する、それはそれは厳しい面接試験を受けて、それに合格しなければなりませんでした。
9号は、お店のご主人が頑張って頑張って死ぬほど頑張って、それでもうまくいかないお店にだけ、再建協力をすることに決めていました。
お店のご主人がぐーたらしていたせいでお店が傾いたって、それは自業自得というものですからね。

9号の『やる気認定試験』に合格したら、その次は、小人たち全員による『お味チェック』が待っています。
小人たちの『お味チェック』。
実は、この『お味チェック』が、9号の『やる気認定試験』の5倍も厳しいのです。
それでも、小人たちの協力を得られれば、傾いたお店の再建は約束されていましたから、花のお江戸の甘味処のご主人たちは、必死になって、小人たちの『お味チェック』合格を目指しました。
不合格になったら、不合格になった理由を研究し、悪い点を改善して、『お味チェック』に再挑戦。

花のお江戸の甘味処のご主人たちが、小人たちの『お味チェック』に合格する頃には、ご主人たちの作るおやつの味は、『お江戸みしゅらん』で5つ星をもらえるくらいのスグれものになっていました。
ご主人のやる気と、『お江戸みしゅらん』5つ星クラスの味が揃っていたら、もう恐いものはありません。
小人たちがたった一日、販売促進のためにお店に出向いていくだけで、そのお店は、すぐに大評判になるのでした。
花のお江戸の粋な江戸っ子たちは、小人たちが応援に出るお店は、味もご主人の人柄もいいお店──ということを心得ていましたからね。
流行るのも当然のことです。

そして、そんなふうにして、つぶれかけていた甘味処を何件も何件も再建した小人たちは、やがて、花のお江戸の甘味処の救世主と呼ばれるようになっていったのです。

でも、それは、一種のボランティア。
小人たちは、花のお江戸に、おいしい甘味屋さんが増えていくのが嬉しかったのです。
頑張った人が頑張った分報われて、小人たちに心からの笑顔を見せてくれるのが嬉しかったのです。
ですから、つぶれかけていた甘味処の再建が成っても、小人たちは甘味処のご主人たちから、お金という形で報酬を貰うことはありませんでした。
お店のご主人の笑顔と、ご主人がくれる美味しい飴細工やお饅頭や甘納豆が、小人たちにとっては何よりの報酬だったんです。

そういうわけで、小人たちが住んでいる長屋は相変わらず雨漏りがしていましたし、銭形氷河も相変わらずの貧乏暮らし。
花のお江戸の小人たちが合体して、見事、花のお江戸の合体瞬になり、銭形氷河と所帯を持てるようになるのは、まだまだ先のことのようでした。







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