はい、前置きはここで終わり。
そろそろ本題──1号捜索大作戦──に戻りましょう。

ところで、小人たちは、1号捜索大作戦開始の前に、もちろん、銭形氷河に事の次第を説明しに行きました。

「なにっ、1号が行方不明だとっ !? 」
湯屋のお客様用出入り口で下足番をしていた銭形氷河は、小人たちの報告を聞くなり、手にしていた草履をぽろりと取り落としてしまいました。

「うん、お使いからは帰ってきたはずなのに、どこにも姿が見えないの」
「1号ったら、いいものと一緒に消えちゃったの」
「1号がいないと、僕たち、なんだか落ち着かないの」

「そそそそそんなに不安がることはないさ。とととととととりあえず、みんなで手分けして捜そう! きききききっと、どっかの茶壷にはまってとっぴんしゃん 抜けた〜ら どんどこしょ〜っっ !!!! 」
『不安がることはない』と言っている当の銭形氷河が、実はいちばん取り乱して&支離滅裂。

「氷河、氷河、落ち着いてっ!」
「あうあうあわわわわ〜っっ !!!! 」
ほとんどパニック状態に陥ってしまった銭形氷河を、9号は、
「氷河、落ち着いてよ、びしっ★」
と、声でぶって落ち着かせました。

「はははははははい〜」
9号の厳しい叱咤で、なんとか、訳のわからない雄叫びを発することだけは止めることのできた銭形氷河ですが、そんなことくらいで彼の不安と胸騒ぎが消えるはずもありません。
かといって、何かができるわけでもない銭形氷河は、あちこちに視線を飛ばして、おろおろするばかり。
まるで、落ち着きのないオランウータンみたいです。

その点、小人たちは実に冷静でした。
消えた1号を心配して取り乱すのは銭形氷河の役目、消えた仲間を捜し出すのは小人たちの役目。
銭形氷河と小人たちは、その役割分担がしっかり決まっていたのです。

「とりあえず氷河は放っとくことにして、ここは冷静になって、1号が消えた訳を考えてみよう」
「うん。ねえ、9号。僕、思ったんだけど……」
「何を?」

冷静に議事進行役を務める9号に、発言許可を求めたのは10号でした。
発言許可をもらった10号は、ちょっと心配そうな目をして言いました。

「1号って、すっごくすっごく可愛いでしょ?」
この意見は、つまり、自分が『すっごくすっごく可愛い』という意見です。
1号は10号と同じ顔をしていますからね。

「うん、そうだね。それが?」
そんなことは、今更言うまでもないわかりきったことだと、9号も思っています。
1号は9号と同じ顔をしていますからね。

「だから……もしかしたら、1号は、変質者に誘拐されたんじゃないかしら……」
「ゆゆゆゆゆゆゆゆゆーか……ゆーか……ゆーか……愉快痛快奇々怪々の怪物くん〜っっ !? 」
銭形氷河は、別に愉快なわけではありません。

「氷河、落ち着いてってば、びしっ★」
「はははははははははい〜っっ」
銭形氷河は、返事からして、ちっとも落ち着いているように見えません。

9号は、そんな銭形氷河を無視して議事を進行させていきます。
「うん、それは大いに考えられることだね」

「あ、でも、誘拐じゃなくて、神隠しなのかもしれないよ。ちょっと前に絵草紙で流行ったじゃない。『瞬と小人の神隠し』とかって」
「かかかかかかかか神隠し、し、し、しずかな湖畔の森の陰からもう起きちゃいかがとカッコが鳴く〜 !! 」
あまりにも大きなショックを受けた人間は、時に、冗談としか思えないような反応を示すものです。
今の銭形氷河がそうでした。

「氷河、落ち着いてってば、びしっ★」
「はははははははははい〜っっ」
銭形氷河は、もう使い物になりません。

もちろん、9号は、銭形氷河を無視して議事を進行させていくのです。
「でも、どうだろう。確かに、1号がいなくなって、僕も落ち着かない気分だけど、実は僕、そんなに不安な気持ちにはなってないんだ。僕たちの心はいつでも一つのはずなのに」

「あ、僕も〜」
「僕もだよ〜」
「むしろ、なんだか、とっても甘い気持ちになってる……」
「うんうんうん」× 14

大切な仲間を欠いた小人たちが、あんまり深刻に心配していないのは、実はそういう理由があったのです。
それにしたって、銭形氷河は取り乱しすぎでしたけれどね。

「だよね。だから、パニクってる氷河はとりあえず置いといて、手分けして1号を捜してみよう。1号は、どこか、すっごく素敵なところにいるに違いないよ」
「賛成〜!」
「異議なーし!」

「じゃあ、今度こそ、1号捜索大作戦開始だ!」
「おお〜っ !! 」× 15

やっぱり、銭形氷河が絡んでこないと、議事進行はスムーズです。
長い長い前置きの果てに、ついに、花のお江戸の小人たちの1号捜索大作戦開始。
小人たちは、それぞれ捜索場所の分担を決めて、すみやかに自分の受け持ちブロックへと散っていきました。


――この時。
小人たちはもちろん、銭形氷河も、湯屋のご主人も、湯屋のお客さんたちも、お団子屋の厨房で新作団子の研究にいそしんでいたお団子屋のおじさんも、まさか、この1号行方不明事件が、花のお江戸のスーパーアイドル小人さんたちが次から次へと神隠しに合う大事件へと発展していくなんてことは、想像すらしていなかったのでした。







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