小人たちの甘い甘い夢を乗せて、船は長崎に向け出港しました。 船の上では、早速、カミュ物理学者とミロ医学者の芸術論争開始です。 「芸術に運命も神秘もない! そこにあるのは、人間の目に美しいと感じられる物理学的美学的法則だけだ。答えろ! 黄金比(*)とは何だ !? 」 「何を言う! 芸術の基本は、美を愛する心だぞ。それは、数字で説明できるようなものではない! 私が美しいと感じたものが、すなわち芸術なんだ」 「そんな馬鹿げたことを言っているから、そんな壺に大金を払わされるんだ! その壺のどこに美しさがある !? 貴様が無駄な金を使ってくれるもんだから、この旅行は赤字だ赤字、赤字旅行!」 芸術がどうこうということよりも、カミュ物理学者の不満の真の原因はそこにあったのかもしれません。 事実がどうなのかは、けれど、この際、問題ではありません。 問題なのは、カミュ物理学者が口にした『赤字』の一言が、とある人物に、運命の覚醒を促したということなのです。 「ふにゃ……赤字……??」 その言葉を聞いてしまった彼に、すやすやと甘い眠りを貪り続けていられるはずがありません。 「甘いなら、赤字でも何でもいいよ〜」 「むにゃ〜。赤字って食べられるの〜」 「食べられるにしても、僕、もうおなかいっぱーい……」 「赤字なんて気にしない気にしない〜」 彼の仲間たちは、それほどでもありませんでしたけどね。 「僕は気にするよっ !! 」 「はにゃっ? 9号、どーしたの、急に大声出して」 「誰かが家計を赤字にしてるっ!」 「赤字〜? そんなの、いつものことじゃない」 「いつものことだから許せないんだよっ! 誰なの、無駄なお金の使い方をしているのはっ !? みんなっ、すぐに肩車してっ! 僕は赤字のお馬鹿さんに一言言ってくるっ!」 「う……うん……」× 14 他のことならともかくも、お金のことで9号に逆らう勇気は、小人たちにはありません。 1号〜8号、10号〜15号は、すぐに9号に命じられた通り、9号を壺の外に脱出させるための14段肩車を作りました。 9号が、恐るべき身軽さで仲間たちの作った肩車を駆け登り、甘くすいーとで幸せな砂糖壺から、ぴょ〜ん☆ と外に飛び出します。 「こらーっっ! 誰だ、無駄使いしてるのはーっっ !! 仏様が許しても、この9号は許さないぞーっっ !! 」 「おわわわわわわっ !? なんだ、この小さな物体はっ!」 「つ……ついに東洋の神秘とご対面かっっ !? 」 ふいに現れた9号の勇姿に、カミュ物理学者とミロ医学者はびっくり仰天です。 果たして、彼等と小人たちの出会いが意味するものは何なのでしょう? ついに! ついに、運命の歯車は回り出しましたー !! (ただ単に、小人たちが目を覚ましただけですが) |
* 注 * 黄金比 ( 1 : 1.618 )
そのバランスの美しさで、古代ギリシャ以来何世紀にも渡って、人々の美的感覚を魅了してきた比率。 紀元前4世紀、ギリシャのエウドクソスが考え,後にイタリアのレオナルド・ダ・ビンチが名付けたと言われている。 |